秋山ミヤビさんは、京都市北部の京北という山村の古民家で猫のぱんちゃんと暮らしています。畑を耕し、麹をこしらえ、味噌を仕込み、おくどさんで煮炊きをし、日々を楽しみながら「サニー・マクデル」という屋号でケータリングをしています。うちのお店でも月に一度、手打ちうどんの日をしてもらったり(彼女は丸亀出身なのです)、野草料理の会をしてもらうのですが、彼女の料理と人柄に惹かれて集まるお客様でお店は溢れかえります。
初対面の印象は、いまどき珍しい無愛想な女の子。当時、ミヤビちゃんは厨房を手伝っていた左京区の伝説のご飯屋「おいしい」の閉店に伴って、店主糸川さんと友人のミカオちゃんと共に京北に移り住み、自給農研究会という畑の学校を主催しながら「畑カフェおいしい」というケータリングユニットをやっていました。自給農研究会は「自分たちの食べる物を自給出来るようになれば自由になれる!」というメッセージを込めて、糸川さん指導のもと畑の実践を学ぶ場で、私は参加して驚いたのでした。それまで習ってきた無農薬有機農法の畑とはまるで違う小さな畑。低い畝、雑草を敷き詰めた畝間。売るための作物を作るのではなく自給のための畑。社会への関わり方が全然違う畑。そして収穫物から保存食を作り、麹を醸し、なんでも手作りしてしまう二人の若い女の子にも驚きました。その後、いただいた二人のお弁当は、大きな弁当箱にご飯と茶色いお惣菜が詰まった、見るからにとっても好みの弁当で、鹿肉のしぐれ煮、野菜のコロッケ酒粕マヨネーズ和え、麹漬けの野菜、どれも味がくっきりと立っていました。おいしい!あっという間に平らげてすっかりファンになってしまいました。
ほどなく、ミヤビちゃんは一人で畑をやりながら「サニー・マクデル」という名前でケータリングを始めました。小柄で引き締まった身体でくるくると立ち働き、自ら育てた赤餅米入りの玄米おむすびを握り、根菜をかき揚げにし、気がつけば茹で立てうどんから湯気が立ち上り、私は横で「いただきます!」と大きな声で手を合わせています。野草の調理法、味噌や麹の具合、20才以上年下の彼女に私は日々沢山教わっています。ブルース好きでお酒好き。いったいあんたはいくつなんだ?と笑ってまうほどの渋好み。明るくおおらかで屈託がないけれど、鋭くシビアで緻密でもある。何百人分ものケータリングをこなし、サラサラと絵も描いてしまう。チクチクと縫い物もこなす。なんでも出来る。けれどまだなにも出来上がっていない途上の人。恐るべき子供のような人。
人に器というものがあるのなら、彼女の器はなみなみと広く、そして深いのです。ミヤビちゃんの中にあるエネルギーは、陽気で不機嫌。最初に彼女から感じた無愛想さ、それこそが彼女の芯。懐の深さゆえ、たくさんの人と深い繋がりを作りながらも、誰にも媚びずどこにも群れず、彼女は真っ直ぐ前を見据えています。震災、原発事故以降どちらを向いていけば正解なのか、誰も答えのわからない時代。悲しみと怒りを秘めて、彼女は自らの日々の暮らしそのもので、大きな理不尽に立ち向かっている。私は、彼女に希望を貰ったのです。広くて深いものは、やがて彼女をどこへ導くのだろう。それがとても楽しみです。今、彼女が近くにいてくれるうちに、希望とともにたくさん、彼女のご飯をいただこうと思うのです。
- 井崎敦子(いざき あつこ)
大学を卒業後、書店員、民藝店店員、デパート店員、NPO職員など職を転々。8年前、同志社大学大学院社会人講座・有機農業塾に入塾、長澤源一氏の指導を受ける。現在も大原で小さな畑を耕しつつ、一昨年6月、左京区にオーガニック八百屋カフェ「スコップ・アンド・ホー」をオープン。美味しいものを通じてつながってゆくご縁が嬉しい日々。
- ● vol.1 サニーマクデル 秋山ミヤビさん
- ● vol.2 屋久島に行ってきました
- ● vol.3 小さなお宿 ぼっかって
- ● vol.4 いちばんたいせつなもの どいちなつさん