第5回 巻機山・米子沢で 沢流にタッチ!
職場の先輩は、大学時代にワンダーフォーゲル部でいろんな山を巡った人。
「沢で一番気持ちよかったのは米子沢。また行きたいと思える所だ」と言っていたので、職場の同僚二人と上ってきました、米子沢。
巻機山の桜坂登山口から、ゴロゴロした大きな岩の河原に入ってゆく。
台風の後で水量は多く、沢の水は勢いよく飛沫をあげていた。「ほんとにヤバかったら引き返そう」と話して入るが、沢登りは登山と違って、何メートルもある滝をいくつも越えた後にそこを下りて戻るのは至難の業。エスケープルートもなかなか見つからない。という訳で、結局上りきるしか選択肢はなかった。しかし、地図を読み間違えて、正規の米子沢ルートではない「ナメ沢」へ入ったところ、数百メートルは続くナメ(一枚岩の上を水が薄く流れている地形)を登ることになってしまった。直登できないほど傾斜のあるナメは、迂回して草場をいくが、ここもまた苔や短い草でずるずる滑る。一歩足を滑らせたら沢の水と一緒に下まで転げていきそうな恐怖・・・やっと源流らしきところに抜けた、と思ったら、今度は背丈の高さの笹が続く。そろそろ足が重くなってきた。しかし藪の向こうの稜線目指し、藪こぎあるのみ!!同僚男子が道を探すため先に行くが、薮でお互いの姿が見えないので、オオカミのごとく(笑)「ホーゥ」「ホーゥ」と声を掛け合って位置確認 する。7合目付近の登山道に出た時にはみんなでハイタッチものだった。無事に帰ってこられて本当によかった・・・。
沢の魅力って、やっぱりある。 流れる水の岩に砕ける音が間断なく鳴っていて、頭の中のことがそれにすり替えられる感じ。そして、体は高い所から低い所へ迷いなく流れる生まれたての水に、文字通り清められる。体内の水の入れ替えがなされるみたいに。
それから何より、全神経を集中させなければ越えられない「高さ」としての滝の存在だ。世界を見ても、川を上るのは日本人だけなのだそうだ。ヨーロッパではキャニオニングといって高い所から下る沢のスポーツはあるけれども、川を"遡上"することはあまりしないらしい。
なぜ滝に上るんだろう。滝に向かうんだろう。解る気がする。圧倒的な自然を知りたいのだ。征服とか達成感とかはもちろん喜びの一つではあるけれども「これは無理、どうやって越えるの?」というほどの滝に出会った時、なぜか生じる"笑えてくる"感覚が、おそらく喜びにもつながっている。
「すごいなぁ。かなわないなぁ。」
急峻な山々に囲まれ、季節の激しい変化に晒される日本では、そんな風に畏れる大きな力に出会いやすいのかもしれない。とは言え、自然への畏敬・・・今年はどうしてもその中に辛い気持ちが混じる。