空き家となってからもお手入れされていました
空き家となってからもお手入れされていました

はじまりは「地域のためにこの空き家を使っていいよ」というありがたいお話でした。以前、大工さんが住まわれていたその家は、建設現場から出たであろう材料を少しずつ活用したり、増築を繰り返したりしている跡が見られます。家が大切にされていた様子がうかがえ、胸が高まりました。

大工さんの遊び心がうかがえます
大工さんの遊び心がうかがえます

自由に使える建物が出来たことでプロジェクトが始まりましたが、どんな風に活用すればよいでしょうか。幸い建物は良い状態に保たれているので、まずは気軽に泊まれる場所にしたいと思いました。移住希望の方、研究や論文の制作を目的として来られる方などを対象とした滞在施設はどうでしょうか。ホテルや民宿に泊まるよりも、住家に泊まったほうが小豆島の暮らしぶりがより見え、体感することが出来ます。

絵に描いたようなお庭です
絵に描いたようなお庭です

参考になるのは、隣の豊島で行なっている「豊島民泊」。人口900人ほどの島に9軒もの農林漁家民宿があり、窓口は豊島観光協会が一括して行なっています。「豊島民泊」とは、農家や漁師である家主さんが、宿泊者に農業体験や漁業体験をさせてくれたり、一緒に晩御飯を作ったりして、その土地の風土を直接感じることができる体験型の宿泊施設です。そうした地域の人との交流が人気となって、何度も遊びに来られている方も少なくないそうです。この話を聞いて、小豆島の空き家を使って滞在施設をするなら、豊島民泊のように地域の人との交流を出来るだけ取り入れたいと思いました。しかし地域の人の負担になってはいけません。サービスする・されるの関係ではなく互いに協力し合える交流はどのように生まれるのか、今後模索していきたいと思っています。

シンボルツリーとなる大きな木があります
シンボルツリーとなる大きな木があります

住む場所と人には相性があります。移住した方の中には、地域と馴染めるかどうか心配される方もいらっしゃいますが、地域の人も同じように心配されています。出来るだけミスマッチングを未然に防ぎ、より良い状態で移って来られるようにすること、場合によっては移住をオススメしないことも、これからは必要になってくると思います。最近では、移住者を増やすことだけを目標にするのではなく、交流人口・関係人口を増やすことを目標にする自治体も増えてきているように感じます。何度も訪れてもらう、積極的に地域の商品を購入してもらう、情報の発信を手伝うなど、地域との関わりは「住む」ことだけに帰結しないのでしょう。

猫がお昼寝しています
猫がお昼寝しています

夢の田舎暮らしを焦って実現させるよりも、自分に合った関わり方を見つけることで、より豊かな関係を築くことが出来ると思います。地方への移住をお考えの方は、焦らず少しずつ足を運んでみてはいかがでしょうか。そんな方を応援できる場所をつくりたいと思っています。

地域の人の心の拠り所である洞雲山(どううんざん)
地域の人の心の拠り所である洞雲山(どううんざん)

プロフィール

向井達也
1989年奈良県生まれ。京都造形芸術大学空間演出デザイン学科修了。dot architects(建築)のスタッフとして家具や店舗什器制作、展示設営などを行う。瀬戸内国際芸術祭2013をきっかけに香川県小豆島町に移住。現在は小豆島町地域おこし協力隊として芸術祭で作られた建物を活用した取り組みや空き地空き家の再生プロジェクトなどを行なっている。
プロフィール写真
Photo:Hideaki Hamada

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