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セツ先生とたいせつなもの

スガミカ(イラストレーター)
1983年~1987年在籍

入学して初めての合評会。
 「ん〜、なんだこのチマチマした古臭い絵っ!」セツ先生の長い棒がピッと私の絵を指した。
 その言葉に愕然とする。下を向く私に初川先生が慰めるように「こういう絵が一番変わっていくのよね」とささやいた。気落ちして何もかも自信がなくなる。「A」と評価された友達の作品もよくわからない。やせっぽちで目立たない地味な子だった。

しばらくしてなぜかコスチュームデッザンのモデルをすることになる。
 細い腕に比べて足は太いし、コンプレックスだらけの私を「おまえ、クチャっとした面白い顔!ププッ!」「日本人にしては珍しいX脚の足、いいよっ〜!」セツ先生はそう言って突然、キュ〜っと耳を引っ張るのだ。
 バンタンの授業に出張したこともあった。普段はちっとも恥ずかしくないのに、セツ以外の生徒の前ではひどく恥ずかしかった。

銀座アートホールでセツアート展が始まったのもこの頃だった。
 モノトーンのマーカーやガッシュを使って、ソファに座った3人の男を描いた。
 「なんだぁ、おまえ、2Qなのにアート展に選ばれるなんて生意気だなぁ〜、こらっ、キュ〜!」
 先生はそんな言葉をかけて「マグレ」の私にそっと自信をくれたりもした。

今、セツ先生がいらしたらどんなことをおしゃべりするだろう。
 引っ込み思案で先生の側にいるだけでドキドキした。
 ほとんどセツには馴染めなかったけれど、今思い出すとそんなひとつひとつの風景が哀しいほど素敵に思える。絵に向き合う姿勢、セツ先生という存在や空気から気づかないうちに私はたいせつなものを確かに受け取っていたんだと思う。それは多分、私の中でいつまでも色褪せないものなのだ。

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  1. 星信郎 より:

    スガさん こんにちは。しばらくお会いしてなかったがご健在でよかった。

    セツ先生の合評コトバ、声高に、しんらつ辛口爆弾!あれは誰だって衝撃うけるよね。でもそこで、初川センセイすかさず救いのコトバは金星! 当時の情景がうかんで懐かしく思いました。
    スガさんは、なんのその実はちょっと勘違いしただけのことでしょう、後の自由奔放なアートはにわかに逆転、やっぱり初川センセイの言ったとうりでしたね。僕もスガさんの絵に脱帽でした。

    その節はデッサンモデルもありがとうございました。セツ先生の言うクチヤンとした顔、これ実は先生のほめ言葉でしたよね。おでこで、ちょっと受け口の顔が好きだったようでしたから。ちなみに日本でいちばん好きな顔の女優は倍賞千恵子だと言ってましたよ。

    • スガミカ より:

      星先生へ
      なかなかお目にかかれませんが、変わらずお元気そうでとても嬉しいです。
      そしてコメントをありがとうございます。
      こんな風に星先生とセツ時代のことを、互いに文字にする日が来るなんて驚きです。

      今思うと引っ込み思案で、友達も少なくてずいぶん勿体無いことをしたなぁと思います。
      当時SNSや携帯があったらとんでもなくいろんなことが起きたのかもしれませんが
      それもまた、タラレバであのゆっくりした面白い時代があったからこその今なのだと思います。

      星先生をはじめ、セツ時代の憧れの方々との再会に感謝しています。
      これもまたセツ先生が引き合わせてくださってるのかも。

      絵に関しては、相変わらず悩み多き毎日。
      セツ先生の言葉を今一度噛みしめてます。笑
      コロナが落ち着いたら、星先生に逢いにクロッキーデッサンに行きたいと思います。

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