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あいまいな色が好き

奥原しんこ(イラストレーター)
1995年~1997年在籍

プロフィールにセツ・モードセミナー卒業と書く度に、私の頭には節先生とセツの建物が浮かびます。ヨーロッパを思わせるレトロな白い建物には階段がいっぱい。丸い山型の窓、植物に囲まれた中庭。沢山の生徒の中にスリムで一際オシャレな節先生がすっと現れる姿はいつも輝いていました。

当時私はセツの近所の会社に勤めており、会社が終わるとすぐセツに向かい坂道を駆け上がっていました。美術短大卒業後、会社勤めをしながらイラストレーターになる夢を諦められず、セツの夜間部に通い始めたのです。くじ引き3回目の入学。2回ハズレを引いた時には、どうしてもセツで学びたいので入れて下さい!と学校に手紙を書いた記憶があります。あれはどなたが読んで下さったのか…くじ運も実力かもしれませんね。セツに通い私は宝物を得ることができました。とは言え在学中私はデッサンも水彩画もなかなか”A”はもらえず、節先生のさらりと描くスリムで美しい人物、迷いのない色の水彩画をぼんやり眺めながら、私は向いてないのかな?と思う日々。それでも人物をデッサンすること、そしてセツで出会えた仲間が好きで3年通い、3年目にはイラストレーターになるために会社を辞めていました。

人物デッサンのある日、先生が上の階から降りて来て私達の教室でデッサンを始めました。小柄でスリムな先生はピンクやエメラルドに光る素材のキャップ姿。存在感があるようで、すっと気配を消し、生徒たちの中に馴染んで描いている。にこやかに。その姿が印象的で今でも覚えています。

被写体を前に瞬間に見極める美しい構図。水彩画にしても絵がすでに想像できているのでしょう、迷いのない色の判断力。私がセツで得た宝物は卒業してしばらく経って気が付いた、この想像力と判断力でした。そしてもうひとつの宝物「あいまいな色が好き」黒い絵の具をパレットに絞ると、いつも節先生が浮かびます。私も黒を混ぜた色が好き。改めて先生を想って描きながら、いつまでも真っ直ぐに描いていきたいなと思うことができました。節先生ありがとうございました。

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  1. 星信郎 より:

    奥原しんこさん この絵、大傑作ですね。 この眺めを僕は何千回も何万回もみていたはずだが、とても絵になるとは思いなかった。 なるほど、こう描けばよかったのだと今にして思う。 

    あるがままに細ながい階段の奥行き、とゆうか奥下がりとゆうか、つい引き込まれてしまいそうな仕掛けのある絵ですね。 あいまいな色がシャープな黒、ちよぴっと原色を、きらっと響いてオシャレ!

    いつも奥原さんは普通でない絵を描く人だ、羨ましい才能。

    むかし銀座アートホールでのセツアート展では、人物2、3人が階段を降りる構図の絵、あれは奥原さんの絵ではなかたったかなぁ〜???。

  2. 奥原しんこ より:

    星先生、ありがとうございます!!

    細長い階段を星先生は上がったり下がったり、なんどもなんども!ですね。
    休憩時間の前に鐘を鳴らすのも思い出すと懐かしいです。

    セツアート展の絵、確かそんな感じの絵だったと思います。覚えてて下さってありがとうございます。嬉しいです!
    階段はその頃から好きだったのかもしれません^^

    2月の個展ではお目にかかれてとても嬉しかったです。また新作を見て頂けるように、頑張りたいと思います。

    この度セツの絵を描く機会を頂き、とても嬉しかったです。
    ありがとうございました。

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