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セツ先生のある日のひとこと

百田千峰(イラストレーター)
1993年~1996年在籍

1級生のある朝のことー。
   先生方がばたばたされて、なかなか授業がスタートしません。
   お近くの先生に「どうしたの?」とお聞きすると、その日のモデルさんが欠席されたそう。
   「わたし、モデルやりましょうかー?」と呑気に冗談まじりに言うと、何と本当にその日のモデルの代役に決まりました。
   教室の真ん中、じぃーっと動かずに立って、生徒さん達の鉛筆の音を聞いているとすーっとセツ先生が現れて、一緒に描き始められました。
    緊張以外の何モノでもない静かなときが流れ、休憩時間になった時、セツ先生が「お前、カッコイイよー!」と仰ってくださったのです。
   ガリガリやせっぽっちの私が褒められるなんて!
   休憩時間に、セツ先生が淹れて下さるコーヒーも、モデルの子はサービスで頂けて、特別おいしく感じました。

授業がおわり、先生が描いて下さった絵をロビーの玄関のコピー機でコピーしながらも、嬉しくて嬉しくて
   事務の先生に、その勢いで、「セツのモデルのアルバイトをしたいです!」と、お願いしました。
   「モデルのアルバイトは、2級以上からのきまりなので、セツ先生に聞いてみますね」との、お答え。
   なぁんだそうかー。

午前部の授業の代わりに午後の授業に出席していた時「セツ先生から、すぐにモデルOKの許可がでましたよ」と、事務の先生が伝えて下さいました。
   その日から、卒業過ぎても暫くのあいだ、生徒とモデルの、二足の草鞋生活をたのしくすごすことになりました。

肝心の絵は、なかなか「A!」を頂けなかったけれど、大好きな先生に、コンプレックスを肯定して頂いたあの日、あの時の声は、今もずっと私の耳に。

今、この原稿を、セツ先生ご出身の会津の地で書いています。
   不思議なご縁を感じながらー。
   セツ先生、ありがとうございます。

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  1. 星信郎 より:

    村田知穂さん、時は流れ流れて、いまは石田千穂さん。あれからもう27年も過ぎてしまったね、当時の様子がリアルに蘇って懐かしいです。
    セツ先生の一声がそんなに人の心を揺さぶるんですね。 1級生の村田さんが「わたしモデルしましょうか」の一声も素晴らしかった。

    その当時、村田さんは漫画誌ガロに投稿してましたよね、今回のコーヒーカップを持つセツ先生の姿もシンプルでカコイイです。

    • 百田千峰 より:

       星先生
      ありがとうございます
      先生に今、絵を褒めていただけるのが、すごくすごくうれしいです。
      「ガロ」の後を継いだ「アックス」という雑誌、今、発売中の最新号に
      私の作品を掲載して頂いています。
      そんな、不思議なタイミングもうれしいです。
      先生とお話ししていると、タイムスリップして、セツの空気が蘇るようです。
      また、お話しさせていただく日をたのしみにしています。

  2. 高田せい子 より:

    大好きな初川先生の絵、いつも初川先生は生徒たちにまざって、クロッキーをかいていた。ずーと、セツモードにいて、目立ったことをしないで、
    いろいろなめんどうをしたり、おしゃべりしたり、していた。銀座のセツモード展のときはじめてみた初川先生の絵はとてもおしゃれでフランスのかおりがした。節先生も好きだったが、初川先生の絵が好きで20号を一枚いただいた。お願いしてよかった。

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