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細い線が洒落ている

井筒啓之(イラストレーター)
1984年~1989年在籍

僕はセツモード・セミナー出身じゃないことになっているけど、1984年の秋、29才で入学している。すでにイラストレーターとして生活できていたけど、絵を一人で学ぶ事に限界を感じていた。その頃仲良くさせてもらっていた坂井晴近さんに薦められ、グループ展で一緒になった原田夏おるさんにも勧められた。僕が好きな絵を描く人達と何かを共有したいという思いもあった。

学校では合評会というのがあった。生徒が教室の壁に絵を張り出し、長沢先生が講評していく授業だ。一人で何点も出すので多分数百点はあったと思う。先生は「A」(褒める絵)とダメ出しの絵にしか足を止めない。僕の絵は毎回100%の確率でダメ出しされていた。こういう絵を描いてはいけないよという見本になっていた。長沢先生はかなり辛辣な言葉を使う方だったので、毎回かなりのダメージを負う。長沢先生が「A」という絵の良さが最初は全然分からなかったけど、何回か合評会を経て分かり始めた。頭では分かるのだけど、感覚というか体というか、自分の腕が言うことを聞かない。僕のイラストレーターのキャリアで身についた手癖と感覚が大きな壁になっていた。その壁を打ち崩すような千本ノックのような合評会だった。僕は生徒の中のワンオブゼムの意識だったけれども、先生は僕がプロでやっている事はお見通しだったんだろう。当時は立ち上がるだけで精一杯だからそこまで考える余裕はなかったけど、その余計な垢のような物を千本ノックで削り取ってくれていたんだ。今はあの時の厳しい言葉の一言一言が有難い。
   長沢先生に何を教わったか聞かれると、生き方についてだよと答えているんだけど、合評会で「A」やダメ出しを貰った級友たちへの講評も含め絵のこともたくさん教わった。「この色の組み合わせが洒落てるんだよ!」「ここに英語の文字はいらない!」とかかなり具体的に言ってくれた。僕は2年間で休んだのは2日だった。長沢先生に絵で認められたい一心で通った意地の2年だ。

卒業して2年目ぐらいだった、ペーター佐藤さんに個展をさせて下さいというお願いが叶って、ペーターズギャラリーで初個展をした。その時に星先生が長沢先生を連れてきてくれた、長沢先生の「A」を貰えたと知った時の嬉しさと安心感は忘れられない。
   在学中こんなやり取りがあった「お前、なんでこの絵が良いか分かるか?」「・・・」「これは、このグレーの面で描かれた顔に鉛筆で描いた眼鏡の細い線が洒落てるんだよ」「(おおおおおおお、そうなのか!)」これがベースになった個展だった。そしてこの個展をきっかけに世の中に出ていくことが出来たのだ。

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  1. 星信郎 より:

    おやおや、なんとかっこよくシンプル! なるほどグレーの肌、細い線、太い線が美しい。流石ですね。  
    しかし井筒君にもそんな壁と苦難の時があったとは、とてもそんなふうには見えなかったが。
    懐かしい坂井晴近君、今はどうしているだろうか? 井筒君の個展ペータズギャラリーでは坂井君もべた褒めだった、「嫉妬を感じてしまう」と言ってましたよ、自分とは全く違うタイプの絵なのにね。
    あの頃は、とくに井筒君の同期は友情盛んで、いろんな人が沢山いて面白かったですね、あれからもう30年前も過ぎてしまった。

  2. 井筒啓之 より:

    星先生、コメントありがとうございます。
    先生、合評会のあと四谷三丁目方面へ歩いて帰る時に友達がとても気を使ってくれたそうです。よほど気落ちしていたのでしょうか。
    でも楽しい2年間でした。
    坂井さんが褒めてくれたのもとても嬉しかったです。(星先生、坂井さんの言ったフレーズよく覚えていますね。びっくりです)
    僕の入った期(夜間)は学校の手違いで定員オーバーしていてなおさら活気があったのかもしれません。

  3. 小池アミイゴ より:

    なんつっても「東京倶楽部」の絵!
    縦構図でグレーが美しくて、長澤先生がなんと言おうと、こういう絵が描けたらいいなと思った、Aを全く取れなかった午前部のクソガキは、俺です。

  4. A より:

    こんなにも、洒落た絵が描けたなら
    私はもう絵の具も画用紙も買わなくていいかもねと思いながら、今回の私のセツ物語を読みました。

  5. 井筒啓之 より:

    小池さん、コメントありがとうございます。え、絵のタイトルまで覚えてくれてるの?
    Aを取れなかったて・・いやいやアミイゴはセツゲリラだったじゃないですか。当時のセツゲリラってセツのエリートが集まって英才教育的な訓練をしてるイメージで、凄いなって思っていました。

  6. 井筒啓之 より:

    Aさん、コメントありがとうございます。
    あ、絵の具と画用紙を使ってない事に気が付きました?
    100枚描いたら1枚はいい絵が描けてる。たくさん描けばその確率が上がってくるよっていう言葉を頼りにがむしゃらに描いてました。
    その100枚の中の1枚の再現です。

  7. hiro より:

    節さん、、大好き
    私の青春
    18歳に、東京へ、、セツモードセミナーに行きたかった
    父親の反対で挫折。。。
    今、田舎でアクリル画を描いてます

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