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ポケットのなかの宝物

下和田サチヨ(イラストレーター)
1989年~1994年在籍

私がセツに行きたいと思ったワケは、実は絵を描きたいからではなく、東京で一人暮らししたいという邪な理由でした。入学の抽選は春に一度自分の手でハズレをひいています。がっくり肩を落として歩いていたら、ちょうど国際マラソンの日で、四谷の交差点で紙の日の丸の旗を振って下さいと言われ、半泣きで旗を振った というなんとなく私らしい思い出つきです。秋にめでたく入学できたわけですが、田舎から上京した小娘は、とにかく毎回ひどく緊張していました。学校の前日は眠れない位に。これは、ずっと変わりませんでした。

セツ先生は「まわりの人の絵をよく見なさいよー」「自由だよ。でも上品でなくちゃだめだよ」とおっしゃいました。ともに学ぶみんなが先生だから、良いところも悪いところも見てそこから学びなさい、自由は案外難しいよ、ちゃんと自分で考えなさいということで、こんな大事なことを私に教えてくれる場所は今までありませんでした。邪な理由で入学し、きちんと絵を描くことに向き合ったこともないコンプレックスの塊の私の視界もパーっと広がりました。セツ先生やロビーに飾られる仲間の絵、立ち振る舞いを観察し熟考しました。夢中で、でも緊張したまま(笑)5年間在学し、ゲリラに選んでいただいた前後は、1日の大半絵を描いてすごすほど絵を描くことが大好きになりました。

渋谷の公園通りの坂の上でセツ先生が道路を横切るのを見かけたことがあります。その場の空気が一瞬でぱっと変わって、セツの外でみるセツ先生はロックスターみたいに最高にカッコよかったのです。歳を重ねることは素敵なことだ。この方が先生でよかったと誇らしい気持ちになったことを思い出します。

卒業後、セツは心地よい緊張感と距離感がある場所に変わりました。それはまさにセツ先生のことであり、先生から学んだ「自由と上品さ」の私なりの答えでもあります。私にとってセツモードセミナーでの時間は宝物です。ピカピカの宝物をいつもポケットに歳を重ねて行きたいです。

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  1. 星信郎 より:

    抽選に落ちた下和田さんが、とぼとぼと、、、そしたらマラソン応援の旗振りをする羽目になってしまったとは、、、いい話ですね〜、ガンバレ!ガバレ!
    田舎から上京した小娘が、なんのなんの本当はスゴイ人だったのだ。昔からお仕事のイラストレーションをみて感服していましたが、今回もまた実に素晴らしい。
    下和田さんの絵は「自由さ、上品さ、かっこ良さ」ではないでしょうか。セツ先生ご自慢のセツパッチと、ちょっと底上げしたシューズで、つまり脚一本だけでセツ先生を想像させてしまう発想、おしゃれだね〜、にくいね〜。 
    下和田さん、やっぱりあの時にガンバレ!ガンバレ!の旗振りをした甲斐がありましたよ。

    • 下和田サチヨ より:

      星先生

      先生〜とっても嬉しいコメントありがとうございます。涙が出ちゃいます。
      思えば、水彩の授業でずーっともらえなかったAをはじめてくださったのも星先生でした。
      私の節目と言える時にいつもポンと背中を押してくださるような、勇気と希望あふれる言葉をかけて下さり本当にありがとうございます。感謝しかありません。
      また、あーでもないこーでもないとお話ししながら一緒にコーヒーを飲んで下さいね。今度は私がご馳走します!

  2. 角の田圃 より:

    旗を振る下和田さんを想像してみた。
    ふふふ
    可愛いかっただろうなぁw

    • 下和田サチヨ より:

      角の田圃くん

      コメントありがとう。
      大都会の洗礼を大々的に受けた感じだったよ。笑
      抽選に来た時はみんなかわいかっただろうね!

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