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「A!」じゃないけど

石川(三浦)優子(オカピ/フェルト作家)
1985~93年~97~2000年在籍

セツを知ったのは全くの偶然。大学の先輩Oさんから「私、これからセツ・モードセミナーという学校へ行って、絵の勉強するの!」と聞き、「ん?セツって何?誰でも入れる絵の学校?それなら私ももしかして入れちゃうわけ?」と興味を持ったのが最初でした。

夜間部に入学したのは85年の春。まだ先着順で入れた頃です。

入学して間もない頃、初めての人物水彩の日。描き終わった後にこれまた初めての合評会があり。そこで自分を待っていたのは、なんとまさかの全否定!のっけから何をどうしてよいのかさっぱりわからなくなってしまった!授業にはしっかり出てはいたものの、気持ちはグレイッシュでもやもやしっぱなし、「A」とはまるで無縁の日々。どんよりしたまま時間は過ぎ、気がつけば本科の2年が終わっていました。

そこからさらに1年近く経った頃。ある日の人物水彩の合評会。いつも通りセツ先生の指し棒が、生徒の絵の前で止まったり通り過ぎたり。

「棒が絵の前で止まらないのには、ちゃんと意味があるんだよ。その意味を考えなさい。」

そう先生はおっしゃっていた。

その日私は画面の中央に大きく黒板を描いた。肝心の人物はその端にちょこんと。やたら緑色が多い絵だった。

いつもなら私の絵の前に指し棒は止まらない。ところがどうしたことか、この日はピタっと止まった。

「これ、誰の?ん?お前か!これね、うまくいってない。うまくいってないけど、狙いはすごくいいよ!あのね、うまくいってないんだよ。でも、狙いはすごくいいから!」

突き落とされて持ち上げられる、のリフレイン。本当に何度も何度も同じことを言われたのでした。合評会が終わり、絵を壁からはずそうとしているところにまた先生はやってきて、またまた同じことばの繰り返し。

「A!」ではなかったけれど、自分には最大級の褒め言葉をもらったように思えて、もやっとしていた気持ちが急浮上。どれほどうれしかったか、どれほど勇気をもらったか!
 

ほどなく、時々は「A!」といってもらえるようになったけれど、印象に残っているのはあの合評のこと。最もスペシャルな思い出です。

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  1. 星信郎ゆう より:

    狙いのいい石川さん、お元気そうでホームスパンやってますね、セツ先生の顔までホームスパンで、、、これ「A!」でしょう。
    あの憎たらしい長い竹の棒?、あれは無責任ボウか? それとも愛のムチか? それぞれの受けとめかたですね。
    それにしても石川さんは狙いがいい、三浦さんが石川さんになってしまって。つくづく人の出会いは不思議で面白いですなぁ〜。

    • 石川(三浦)優子 より:

      星先生、コメントありがとうございます。そしてこの場でまさかの「A」、これまたありがとうございます!
      合評になるとどこからともなく現れるあの棒、当時は一喜一憂してましたが。今思い返すと魔法の棒だったかも?なんて思ったりします。
      確かに出会いは不思議ですね。人でも。モノでも。フェルトに出会えたのもファッション科に行ってたからこそですし。
      あ、でも石川になったのは、はたして狙いがよかったのかどうか甚だギモンですが、、、

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