構造実験

構造実験

 

破壊試験から始まる壁の耐力性能向上の挑戦

 

健康で安全な木の家づくりをめざす工務店の会。その活動の一環として、構造設計の知識の共有と施工技術の向上のための研鑚を積んでいる。今回は構造家の山辺豊彦氏の監修で行われた、壁の実大モデルを用いた加力試験の模様を紹介する。

 

2015年11月27日。滋賀職業能力開発短期大学校、通称「滋賀職能大」にて『チルチンびと「地域主義工務店」の会』による構造実験が行われた。集まったの
は西日本の会員社を中心に50人ほど。大工・設計者・現場監督など職種はさまざまだ。メキメキと壁の試験体が音を立てる中、真剣な眼差しで皆実験の行方を追った。

地域に根ざし健康で安全な木の家づくりを提唱する当会では、自然素材と産地の明らかな木材を使い、職人とともに木の家をつくっている。2009年には山辺豊彦氏監修のもと、東北の会員社を中心に、合板に頼らない長期優良住宅の耐震等級を満たした工法を検討。その結果、「チルチンびと・地域主義住宅」として国の「長期優良住宅先導的モデル事業」に採択された。

今回は各社標準仕様の鉛直構面の壊れ方を見ることがメインの実験だ。鉛直構面とは壁のことで、地震や風など横からの力に耐える役割を担う。「自分たちの建物をデータから客観的にとらえ、壊れ方を確かめることが大事」と山辺氏は考える。

会員4社から提供された試験体は6種( 筋すじかい違 あり3種、木摺りパネル1種、面材2種)。まず、左右に加力して壁の強さを表す壁倍率を計測し、その後破壊するか加力方向へのズレが200ミリになるまで加力を続け、破壊時の様子を詳細に観察した。

 

しさと安心を構造からアプローチ

 

今回の実験から得られた知見がある。樹種の組み合わせによって筋違は粘り強さを発揮するということだ。「硬い檜の筋違とやわらかい杉の梁桁。この組み合わせが効果的だったのは驚くべきこと」と山辺氏も注目。面材については釘を打ち込みすぎないことが課題とわかった。

参加した大工からは「自分たちがつくるものの壊れ方を見ることでさらに家づくりの本質に迫ることができます」との感想が聞かれた。設計者からは「構造が美しいほうが家も美しくなる。だから大工にも経験に加えて壁倍率や筋違の根拠を理解してもらえたら、お互いよりよい仕事ができますね」との声があり、それぞれが手ごたえを感じていた。実験に協力した滋賀職能大の指導員・覚張良太氏からは「構造実験というと、研究のためにある、どこか遠いものだと思われがちですが、実務を積む工務店の方にこそ活用してほしいですね」とのこと。

『チルチンびと「地域主義工務店」の会』では、木造の理解を深めるべく、こうした構造実験のほか山辺氏による講義を定期的に行っている。実験を繰り返し、体感として構造設計を身に着けていきたい。