vol.5 エバーグリーンのリース vol.5 エバーグリーンのリース

4ひきのねこ

今日は、クリスマスリースをつくりに来た。秋に訪ねたときよりも、春のような明るい花が増えている。店主の悠三さんが、大きなゴムの木を磨いていた。


「こんにちは。お店の中は、春みたいですね」 「冬に向かう季節は、ちょっとシックなものが多いけど、新年を迎える季節になると、もう人の心は春に向いていくから、春の花が多いね。本当に季節ごとに日ごとに、人の気持ちは変わるからね。その、お客さんの気持ちに合わせて花を仕入れていくんだよ」

 

明るくて優しい、華やかな花に心が和む。初秋に秋紫陽花の枯れっぽい色を見て、かっこいいな、飾りたいな、と思った気持ちとはたしかに変わっている。この季節、花屋さん(だけでなくあらゆるお店)の店頭に、ずらりと並んでいるポインセチアもここにはなくて、それがかえって気持ちを和ませるから不思議だ。

 

4ひきのねこ

「今日は、本物のリースをつくるよ。エバーグリーン(=常緑樹。落葉したり紅葉したりしない木)のリースには、"永遠の平和"という意味が込められているんだよ。丸は永遠に繋がっているからね。いろいろ飾り立てず、葉っぱだけでも立派なリースなんだよ。グリーンにもいろんなのがあるからね。裏にある、好きなのをつかっていいよ」

 

いままでなんとなく飾っていたリースにそんな意味があると初めて知った。店の裏へ行くと、先っぽが黄色い雪冠杉、白っぽいブルーアイス(コニファーの一種)、裏表で色が違うウラジロモミの枝、葉っぱがふわふわしたヒムロ杉・・・さまざまな種類の針葉樹から、深い緑、凛とした香りがする。思わず深呼吸をしてしまう。

 

「まずは少し大ぶりの枝を丸めて土台をつくるよ。こうやってね、枝を丸めていくと固い部分と柔らかい部分でカーブが違うでしょう。当然先の方が細くて柔らかくて丸めやすいよね。また、葉の厚みも場所によって違うね。それを、次の枝を継ぎ足しながら、カーブと厚みがどこも均等になるように丸めて、紐でしっかり束ねる。でもあんまりきつくしばりすぎると、あとから飾りの枝が挿しこめなくなってしまうよ」

 

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「もう、これだけでも紐の代わりにリボンにしたり、葉先を少しほぐして出してあげたりしたら飾れるけど、次は土台に葉を挿していくよ。花を活けたときにも話したけれども、リースでも同じで、枝や葉の形、流れを生かすようにね。挿しやすいように根元の葉を押さえながら枝をさしてやるんだけど、そのときもなるべく無駄がないように枝の根元から伐っておく。そうすると挿したあと抜けにくい、小さいのもまた使えるよね。裏から表に出してきてもいい。小さな枝を串にして、すこし土台に穴をあけてあげてから挿しこむとやりやすいよ」

 

4ひきのねこ

枝を挿していく作業は意外に大変。やってもやっても隙間があって、どんどんその隙間を埋めるようにしていく。ただもう一心不乱に枝を見、丸みを見、厚みを見、挿す・・・の作業の繰り返し。わたしはモミの裏と表の葉っぱの色の違いを使って、丹念に少しずつ枝を挿していった。友人は、ワイルドに大きい枝をそのまま使おうと格闘して、なかなか苦戦しているようだった。なんとか綺麗な丸になるまで、あっというまに3時間ぐらいが時間がすぎてしまった。指はヤニで黒くべったり。でも嗅いで見るとすごくいい香りがする。森林浴をしている気分だ。

 

「できたね。飾りは、もうほんの気持ち、ちょこっと、そのリースに合うものをお化粧してあげるような気持ちでつけてあげるといいね」

 

4ひきのねこ

松ぼっくり、コットン、クルミ、バラの実、ドライの葉っぱ・・・すべて自然のものだ。これがエバーグリーンのリースにはしっくりくる。足のないものは根元にワイヤーを付けて緑色のテープで補強し、ワイヤーをリースに差し込む。わたしは雪を表現したくて白いコットンを、そしてなにか赤色のワンポイントが欲しいので、カラスウリの飾りをつけた。アフロヘアのようにボリュームのある友人のリースは、変わった形の松ぼっくりや、葉っぱ、枯れたコットンや赤い実の枝で、野性味を表現している。同じように教わっても、全然違ったリースになるのが面白い。

 

はじめも終わりもない丸い輪が表す「永遠」。雪に覆われた厳冬期にも緑を保つ永遠の緑、エバーグリーンは「永遠の平和」のシンボル。本来の意味を教わって心を込めてつくったリースは、繋がっていく命を感じさせて、特別の輝きを持って見えた。

 

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