vol.4花と遊ぶ(後編) vol.4花と遊ぶ(後編)

友人が選んだ花器は、銅製の素敵なものだった。口幅が直径25センチほどもあって活けるのが難しそうだけれど。同じ大輪の紫陽花を手に取る。そして、小さな緑の実がたくさんついた野ばらの枝。バケツから引き揚げてみると、かなり長く、太い木の枝だ。どうにかその枝を曲げて花器に這わせようとするが、枝から何本も延びた小枝は花器に納まるどころか、暴れん坊のように外側に飛び出し、悪戦苦闘の末、にっちもさっちもいかない。友人がついに悠三さんに助けを呼んだ。


4ひきのねこ

「これは、面白いね。枝の力は人間が思うよりももっと強いし、しなやかなんだよ。もうこれは手でこの感覚を覚えていくしかない。植物と遊ぶんだよ。どこまでできるかやってみてごらん」

 

枝をぐーんと曲げてみる。しかし、見るからに花器の中に収まる前に折れてしまいそうだ。それ以上力を込めるのが怖い、と戻された枝を、悠三さんはさらに力を込めて曲げる。もう折れる!と思ったが、折れなかった・・・


「この曲がるときにたまった力、凄い力が張りつめているよね。枝と枝の張り合う力を利用して、こんな広い花器では立つはずもないような、背の高い花を立たせることもできるよ。どちらか一方だけが水につかっていればいいから、片方は水より上にあってもいいんだ。枝の途中にはさみをいれて、皮一枚でつないで、その割れ目から水を吸わせたりすることだってできる。自然の力を利用して、自由に遊べるんだよ。植物は全然僕らが思っているよりも強い。少しずつしならせて弱らせて曲がった形を人間がつくる方法もあるけど、僕は植物が元々持っている力をなるべく生かしたい。ただ、凄い力がかかっているから、茎や枝の面と花器の面は合わせるようにはさみをいれてあげると安定するね。そういうときに人間の手が必要なんだよ」


4ひきのねこ

花器に跨った枝をぐいっと押してみると、ぐぐっと押し返してくる。会話をしているみたいだ。できあがりはとても美しいとは言い難いけれど、植物の枝や葉の力強さ、野性味が感じられて面白いものになった。

 

撮影が終わると、いつものようにお茶の時間だ。表面が飴色で皮がパリパリの、懐かしい感じのアップルパイ。しっかりと甘酸っぱいリンゴの味がする。頬張りながら雑談していると、さっき曲げた枝の一方が外れて、いつの間にかまっすぐに花器の中で立っていた。一方で落ちかかっている枝もある。どうやって独りで立ったのか? 想像すると可笑しくなってくる。「なんか、あれはあれでいいね」と悠三さん。「あれはあれで・・・かっこいいですね」と、店に居る皆で笑う。楽しくて幸せな、花と遊ぶ時間。