苺の茎葉を染料に試してみようと思ったのは3年ほど前、東京の赤坂のアークヒルズで毎週土曜日にひらかれているヒルズマルシェがきっかけでした。せっかく農家さんと一緒に出店しているのだから、野菜や果物で染めたものを用意しようと。苺の茎葉、玉葱の外皮、楊梅の樹皮、蓮の果托で帆布を染めて、野菜をゴロゴロといれられる帆布のマルシェ袋を作っていきました。
 

染料として茎葉を採るには、たくさんの苺が必要です。幸いにもその前年に、こだわりの苺栽培をされている諸橋弥次郎農園さんとのご縁があり、苺狩りの招待をいただきました。そのとき染料として試してみたいとお願いをしてみますと、快く承諾いただけました。妻と子どもが笑顔や歓声とともに苺を摘み味わっている脇で、私は畝の間に摘み落とされていた葉を嬉々として収穫。そのちぐはぐな様子に、自分でもおかしくなったのを覚えています。
 

何度か通っているうちに、諸橋さんがプレゼント用にとシルクとカシミヤで織られたストールをオーダーしてくださいました。もちろん染料は諸橋さんが育てた苺の茎葉。こういうときには植物染めの醍醐味を感じて嬉しくなります。黄金色に染まったストールは、シルクの光沢とカシミヤの肌触りが相まって神々しくも優しい印象。諸橋さんの栽培に取り組む姿と重なり合うのを感じました。
 

星名康弘/植物染め 浜五

「植物図鑑」のはじまり

わたしたちは、植物の色に魅せられ、紙、糸、布などを染めている二つの工房です。植物で染めるということ。そこにある大切なこと、見過ごしてきたことをていねいに拾い上げていくために、染料となる植物の図鑑をつくりたい。見て頂いた方とのコミュニケーションをとりながら、新しい発見もしながら、制作を進めていきたい。そんな思いから立ち上げたプロジェクトです。
■監修:新潟県立植物園 倉重祐二

プロフィール

星名康弘
星名康弘(ほしなやすひろ)/植物染め 浜五新潟県十日町市生。
文化財建造物の修復の仕事を経て、染色の道に進む。 新潟市の海辺の集落に工房を構え、暮らしの品々を植物で染めている。
田中雄士
田中雄士(たなかたけし)/紙工房 泉紙漉き職人。
福井県越前市での修業の後、故郷・新潟県弥彦村に工房を開く。素材のもつ個性を大切に、一枚一枚丁寧な紙つくりを行なっている