『ダムネーション(DAMNATION)』という映画が、各地の映画館と上映会で人気を集めている。「ダムの国」の記録映画と思いきや、辞書には「天罰」「こんちくしょう」など物騒な訳があり、掛け言葉のタイトルとなっている。アメリカでのダム撤去の動きを追うドキュメンタリーだが、ちょっと毒気あるユーモアに満ちた痛快なエンターテイメントになっているのが人気の秘密のようだ。
場面は1935年のフーバーダム完成式でのルーズベルト大統領の古色蒼然たる演説で始まる。「荒々しく暗い渓谷の景色を一変させる世界一のダムの完成は、米国民の誇りだ」。米国では20世紀に入った頃から農業、工業、水道のための大規模ダム建設が始まり、1920年代にはダム黄金時代を迎え、現在までに大小約7万5000基が造られた。その間、多数の犠牲者を出す決壊事故を幾度も起こし、国立公園にも建設地を拡げた“ダムネーションのあゆみ”を、記録映像を通してまずは知ることができる。
一方、荒々しい渓谷や自然をアメリカの誇りとする自然保護運動もまたアメリカ生まれ。ダムと自然保護との衝突は早くも20世紀初めに始まり、以来、一世紀を超える宿敵の仲となった。ダム撤去論争をその因縁の延長戦として観るといっそう面白くなる。
絶滅危惧種のサケを守ろう、「Save the Salmon」と一方が叫ぶと、「Save our Dam」と反論するもう一方。レクリエーションが売りとなっているダム湖をカヌーで下ろうとして警察にテロリスト扱いされるプロデューサー自身。どちらにも向けられるユーモアの視線。
電気(人間)かサケ(自然)か―対立する両者に主張させつつ、生態学者、作家、役人、農漁業者、先住民などが語る川やサケなどへの想いが次第に説得力を増していき、ついに中~大規模ダムの撤去シーンの連続につながる。そして、コンディッドダムが爆破撤去された1年後、ホワイトサーモン川を自由に下るカヌーの群れに胸が熱くなるのだ。
それで終わらない。役立たずとなったダムのあり処を大衆に知らせたのは、活動家アーティストの命がけの落書き! 夜が明けるとひびや切り取り線の入ったダム壁が出現し、対する役人は「裏にも切り取り線があると話は早かったんだが」などとコメントする。アメリカはでかい! ダム嫌いはもちろん、ダムマニアの方々にも観てほしい映画だ。誰でも開ける上映会についてはこちら。次回は日本のダム撤去について