2

ほんとうの自由

高田理香(イラストレーター)
1984年~1987年在籍

 中学生のころ、ふたつ上の姉の部屋にあった「Fair Lady」という小さな雑誌でセツ・モードセミナーのことを知りました。高校生向けに学校で売られていたその雑誌はファッションや手芸、イラストエッセイやコミックなど盛り沢山の内容で、とてもおしゃれで楽しそうな雰囲気が詰まっている、ちょっと昔の『Olive』のような雑誌でした。
 ある時ファッションページに、“セツ先生のご自宅をお借りして撮影しました”という外国の部屋のような写真が載っていて、ものすごくときめいたのを覚えています。他のページの好きだったイラストレーターもセツ出身のひとばかりでした。
 そんなわけでセツ先生とセツ出身のイラストレーターに憧れを抱いた私は、高校卒業後は迷いなくセツに行くことを決めたのでした。

 じっさいに通い始めてみると、まわりにはおしゃれで絵のうまい人たちがたくさんいたし、セツ先生や先輩たちの絵を目の当たりにして圧倒されてしまい、とても他の生徒たちみたいにセツ先生と和気あいあいとお喋りするなんてできない・・・地味に目立たない生徒でしたが。
 それでも、あのシンプルでかっこいいパリのアパルトマンのような校舎にいるだけでも嬉しくて、みんなでモデルさんを囲み絵を描く時間は(いかに自分のデッサンが下手かということも含めて)いろんな発見があって、ほんとうに刺激的で無我夢中の日々でした。
 休憩時間に中庭でみんなと本格的なセツ・コーヒーを飲んだり、ロビーに張り出された水彩画の色の重なりをため息まじりに眺めたり、先生方やスタッフのおしゃれな着こなしをかっこいいなあと観察したり、掲示板に貼られたお薦めの映画や展覧会についてわいわいお喋りしたその足で出かけたり、、、そういうことのすべてがとても楽しくて、違和感なく自分のなかにすんなり溶け込んで、とても居心地がよかったのです。

 ある日のこと、生徒たちがロビーで開いたバザーで誰も手をつけないようなド派手なシルバーの上着を安く買ったセツ先生が、すぐにその場で羽織って茶目っ気たっぷりにみんなに自慢していたことがありましたが、あれは可笑しかったです。
 「こんなに安くていいの買っちゃった!オマエたち、なんで買わないの?プッ!」
 記憶が曖昧だけれど、だいたいこんな感じのことを私たちに言い放って。セツ先生が着るとほんとうによく似合っていて不思議とお洒落に見えました。

 授業中にセツ先生の言った言葉で強烈に印象に残っているものがあります。
 「オマエ達は自由だと思っているかもしれないけど、親のお金で生きているうちはほとうの自由なんかないんだよ~」
 それを聞いたとき、ガーン!となって、早く好きな絵で仕事ををしてほんとうの自由を手に入れたいと思ったのでした。
 
 あの頃ほど真剣に“先生”の言うことに耳を傾けた時期はなかったし、あの場所から吸収したことは今も私の軸となっていて、その大きさに今さらながら驚いています。

2 Comments | RSS

  1. 星信郎 より:

    高田理香さん、ながらくお会いしてなかったが、お元気そうで良かったです。何年かまえにキチムのデッサン会では一緒でしたね。

    セツ先生のデッサン姿は明快、秋、初冬の色彩で、流石みごとです。右横に描いてある椅子は、セツの校舎ができるずっと前には先生のアトリエ池袋にありましたよ。そのころはベルベット布張りアンティーク、ミスマッチで不思議な存在感でした。かと思うと、派手なシルバーの上着を?、、、セツは限りなくミスマッチでしたね、笑ってしまう。

    小さな雑誌〈Fair Lady〉はセツの先輩たち数人が自由勝手につくってたらしいよ、中村 幸子さんも高校時代にみていたそうです。 星より

  2. 高田理香 より:

    星先生、こんにちは。
    たいへんご無沙汰しております。

    コメントをありがとうございました。
    あの椅子は、池袋モンパルナス時代からセツ先生のアトリエにあったものなんですね。ベルベット張りのあの二人掛けの椅子に若きセツ先生が誰かと座っている様子を思わず想像してしまいました。

    セツの校舎にあったテーブルや椅子やコーヒーカップ…色々なものがぜんぶセツっぽくてとても好きでした。

    星先生の細やかな視線で記憶された貴重なエピソードを、今思いがけずこうして教えて頂けるのがとても嬉しいです。
    ありがとうございます。

    落ち着かない日々が続きますが、またどこかでお目にかかれるのを楽しみにしております。

星信郎 へ返信する