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セツ・ヨーロッパツアーのこと

大野 博美(MJイラストレーションズ 在学中)
1979年~82 、1997~02年在籍

 セツ・モードセミナーには、セツ先生と行くヨーロッパツアーがありました。先生の行きたい所を中心にした、毎回コースの違う3週間程のツアーです。夏の大原のスケッチ旅行の、大きな半切の画板とイーゼル広げた集団が、そのままヨーロッパを移動するような感じです。

 私が参加したのは98年4月、30人程で地中海沿いにバスでジェノバからヴィルフランシュ、ニースから夜行列車とバスでオンフルール、セツ先生が「夏物語」を見て行きたくなったというディナール、そしてパリというコース。盛り沢山の日程の割には格安、とはいえ貧乏生徒達には思い切った出費で、だからみんな荷物も小遣いも最低限。
 でも、セツ先生と一緒に移動して食事をして、あとは勝手に観光して好きな場所で絵を描いて自由に過ごす毎日は、他にないとても贅沢な経験でした。
 セツ先生の後ろにイーゼル立てたら、すごい速さで絵が出来上がるのをわくわくしながら見てしまって自分の絵は描けなかったこと。
 リゾットだけは「オレ、めっこめし(芯の残った米)嫌い!」と言いながら残してたセツ先生。
 新しいレモンイエローの厚底スニーカーを「そこの靴屋のワゴンで安かったの。オレ女物履ける(24.5㎝)んだ、いいだろー。」と自慢してたセツ先生。
 ディナールの瀟洒な四つ星ホテルの雰囲気に気後れして、ディナーの席でついペコペコしてしまう生徒達に「おまえたち腰低すぎ!こういう場所では女王様のように振る舞いなさい。」と笑っていたセツ先生。
 モンマルトルの丘を、息を切らす生徒達を追い抜いて愉快そうに大股で登って行ったセツ先生の姿も印象に残っています。

 セツ先生の美意識やセンスの他に私がセツで学んだのは、そうやって年齢も性別も経歴も異なる人たちが一緒に絵を描いて、全く違う絵が出来上がる面白さ、それを見せ合って話ができる楽しさでした。
 たぶんそれが、セツを離れてもずっと私に絵を続けさせているのだと思います。
 

1件のコメント | RSS

  1. 14ページ より:

    読んでて旅行の凄く楽しいワクワクな感じが伝わってきました。
    私がセツに通っていた時はもうセツ先生が亡くなられた後だったので
    旅行はなかったのですが、貴重なお話が読めて良かったです。

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