奥村まことの方丈記

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安倍総理大臣が「ザハ・ハディドさんの案は白紙撤回」と言った日の夜のプライムニュースに出てきた元総理の森さんは「国立競技場は何しろもう建ってから50年以上も経っているので、壊さなきゃならない時期に来ていたんですよ。」と言った。一般の木造住宅だって百年もつのに鉄筋コンクリート造りの公共建築は50年が限度、ということのようである。とんでもない!法隆寺だって千年以上建っている。そんなもったいない話があってよいものだろうか。

練馬区の住宅相談を建築家のグループで引き受けていた時期がある。ある時来た人が「家を建て替えたいのですが」と言うので「何年たちましたか」ときくと「40年もたちました」と言うので「あなたのお年はおいくつですか」ときくと「40才です」と答えたので「まだお若いではありませんか。家も同じように大切にしてください。直したいところがあれば考えましょう。」と言うと、大変ものわかりのよい人で賛成してくれた。多分愛知芸大(※)も、もう年を取って老人になったと思われているらしく、盛んに「建て替え方向」に向いている。せっかく学校法人になって「儲けなければならない身になったのだから、隣の万博会場跡地の公園といっしょに公園にして「芸大アトリエ団地」をつくり、レストランもつくり、楽しい市民のための文化施設にしようではないか。職員住宅は安く直せる。学生数は減る一方だから楽しい文化施設をつくることを心から望む。

東京工業大学の藤岡洋保先生(建築史)の造語で「直すことは創ること」というのがある。ヨーロッパの人は建物を直すのにとても熱心だ。日本人はあっさりしすぎているのかもしれない。しかし、建物に住む人や公共建築を使う人にとって、一番大切なのは保守管理だ。建築家はすべて「基本設計」「実施設計」「現場監理」「保守管理」契約の4つをすべきである。保守管理という仕事は高度な技術を要し、複雑で手間のかかる仕事だが、建築家たるものはそれをすべきだと思う。それよりも先に、もっともっと長持ちする設計をすべきだ。建築家や建設会社が大変長持ちする設計をしたのであれば、もっと大きな世論が壊さないことを支持するようになるだろう。

※愛知県立芸術大学:まことさんの師・吉村順三さんが設計。1966年の開学以来、緑が育まれ、自然環境と見事に建築が調和していたが、大規模な改造が始まっている。

 
愛知芸大(イラストも筆者)
愛知芸大(イラストも筆者)