夏到来です。海をテーマした郷土玩具はないかとおもちゃ部屋を探すと、ありました! ありました! 蛸です。蛸は、軟体動物門頭足綱八腕形目という種類の動物だそうです。8本あるのは足ではなく、腕なんですね。日本には蛸を捕まえるための蛸壺という独自の漁具がありますが、郷土玩具にも少しばかりの蛸がありました。

まず、三重県の伊勢の練り物の蛸。少し前までは、伊勢神宮の参道の土産物屋さんの店先にブラブラしてお客を待っていました。バネになった金属の金具に、当時は新しみがあったのでしょうね。ちゃんと「足」が8本あります。数年前に廃絶したのですが、マニアは嫌なもんでなくなると欲しくなり、今になって人気を呼んでいます。まあ、それがマニアのマニアたる所以かもしれませんが。

伊勢の練り物の蛸
伊勢の練り物の蛸

今から60年以上前、郷土玩具のガイドブックを頼りに、ひとりの少年が東海道線の「東海○号」という準急列車に数時間揺られて東京の亀戸天神を訪れました。社前に「土佐屋」さんという土産物屋さんがあって、軒先に大きな三番叟の姿をした蛸の張子がぶら下がっていました。少年は、早速この張子を求めて意気揚々と田舎に帰りました。実はそのころには地元亀戸にいた作者はすでに廃業しており、これは埼玉県の越谷方面のだるま屋さんに依頼して作らせていたものだったです。そうとは知らず、念願の「亀戸張子」を手に入れた少年は喜びに溢れていました。それが若き日の私です。この頃は、純粋に集めることだけを喜びにしていた、無垢な少年だったのです・・・。

蛸の三番叟
蛸の三番叟

そして静岡県の浜松張子の蛸。これもおもちゃ屋さんの軒先で、風に吹かれてブラブラしていたのでしょう。 私の故郷で作られている「浜松張子」は、実は先祖が江戸の人で、この「亀戸張子」や日本橋の小伝馬町で作られていた張子をモデルして張子を作ってきました。廃藩置県で遠州に移住して息子を浜松の玩具屋さんに丁稚奉公させ、今の浜松張子となったのです。こちらの写真の蛸も亀戸天神で見た張子を参考にしたのでしょう。地元のお付き合いの縁を頼りに作者に復活していただいたものです。

浜松張子の蛸
浜松張子の蛸

蛸、たこ、タコ、凧。そうです、凧の蛸があります。新潟でこんな可愛い「蛸の凧」が作られていました。蛸の凧、シャレですね。おっと、北海道には烏賊(いか)の凧もありました。実は、昔は凧をイカと呼んでいたのです。「たこ」の下につける紙の重りがヒラヒラすることから、「たこ」を「いか」とか「いかのぼり」と呼び、江戸幕府が「いかのぼり」を禁止したので「たこのぼり」と名前を変えて、幕府の目を誤魔化して揚げたので「凧」となったという説があります。お上に反抗したのでしょうね。庶民の知恵です。

新潟の「蛸の凧」
新潟の「蛸の凧」
北海道の烏賊のぼり 
北海道の烏賊のぼり

 

今日はタコさん、いやたくさんの蛸のお話、イカがでしたか?

おまけの蘊蓄。火星人を蛸のような姿だと唱えた学者はアメリカの天文学者ローウェル。知性を持っているので、きっと頭でっかちだと想像したのでしょう。これをイギリス人の作家、H・G・ウェルズがSF小説『宇宙戦争』の挿絵で具現化して挿絵にしたからだそうです。同じ頭の大きいチコちゃんも例の番組で語っていますよ。
そして、足、いや腕が8本の蛸以上にしたたかなのはやはり人間でした。「口八丁、手八丁」という人物がいるのですから。

 

両生類の中で一番繁栄しているのがカエルで、世界には約3000種、日本には約30種が生息しているといわれています。

梅雨時にはアマガエル、夏の盛りにはヒキガエルやトノサマガエル、そして藪蚊に刺されながら川の土手で釣りを楽しんでいると、どこからか「グエッ」という鳴き声が。これは蛇に飲まれた蛙の悲鳴。梅雨から夏の盛りはカエルと親しんだものです。アマガエルの皮膚には毒があるのをご存知でしょうか。可愛い顔をして、なかなかしたたかですね。

我がしもたやは東京から埼玉県に入るとば口の和光市という所です。そこにささやかな新居を構えた頃は、これまたささやかな庭から大きなガマガエルが顔を出し、子ども達が幼稚園に行くのを玄関で見送ってくれました。それが何年か続きましたが、ある頃から顔を出さなくなりました。先住者だった彼? 彼女? がいなくなったのは、子ども達の巣立ち同様寂しい限りです。

昔から地方で作られてきた郷土玩具の世界にもカエルがすみついています。その筆頭が愛知県名古屋市の戸部という所で作られていた「戸部の蛙」。昔々、戸部に非常に短気な戸部新左衛門という殿様がいて、隣村の山崎からくる旅人が行列を横切ると、誰彼の差別なくぶった斬ってしまうという凶暴な殿様だったそう。それで「山崎越えたら飛べ飛べ(戸部、戸部)」というこの地名を織り込んだ言葉が生まれたという伝説があります。ここから明治時代に土を手で捻ったカエルの人形が生まれました。手捻りのための自由自在なカエルたちの誕生です。

持っている戸部の蛙たちを思いきって画面に解き放ってみました。ドキッとするカエルもいますよ。どうぞお楽しみに。

可愛い焼き物のカエル

郷土玩具のカエルは非常に少ないですね。三重県の二見が浦で有名な伊勢の興玉神社で授けてくれる「二見の蛙」。可愛い焼き物のカエルです。「無事に帰る」という願いが込められています。
あけび細工の蛙

今は作られていませんが、長野県の野沢温泉のお土産だった「あけび細工の蛙」。地元で採れるあけびのつるを温泉の湯につけ、柔らかくして編んだもの。あけび細工の鳩車は有名で、こちらは今でも温泉土産として健在です。このお土産はあけびを編んで作った土瓶敷から考案されたそうです。

あけび細工の蛙

戸部の蛙とあけび細工の蛙は絶滅種、二見の蛙は絶滅危惧種を免れていますのでご安心を。

裃姿の猫
裃姿の猫

神妙に猫が裃を身に纏い正座をして、右手でお金を、左手でお客を招いています。大阪の住吉大社の末社・楠珺社(なんくんしゃ)で授けてくれる「商売繁盛、家内安全」のお守りです。毎月初めの辰の日に求めて神棚に祀り、48体揃うと「始終発達」という願いが叶ったとされ、神社に納めると大きな猫と交換してくれます。さらなる大きな繁栄を祈ってくれることになるのですね。

毎月初めの辰の日に求める猫=「初辰(はったつ)の猫」、略して「はったつさん」と呼ばれて、古くから大阪で親しまれてきました。昔から思っていますが、48体の猫と大きな猫は等価交換できているのでしょうか? てなことを言うと、不信心者、下衆の勘ぐりと叱られそうですね。ちなみにお金を招く右手を挙げた猫は偶数月、お客を招く左手を挙げた猫は奇数月に授けてくれます。楠珺社の祭神はお稲荷さん。狐がお使いですね。

そこで、春の雛祭に郷土玩具尽くしのお雛様を作ってみました。

春の雛祭に郷土玩具尽くしのお雛様を作ってみました

女雛と男雛はやはり住吉大社で授けてくれる夫婦和合の「裸雛」、

女雛と男雛はやはり住吉大社で授けてくれる「裸雛」

五人囃は「初辰の猫」、三人官女は高松と津の「奉公さん」と八代の「おきん女」、

犬筥は奈良・法華寺の守り犬、

犬筥は奈良・法華寺の守り犬、

狐は京都・伏見人形。いい雛祭になりますでしょうか。
せっかく作ったお雛様、旧暦の雛祭りまで飾らせてもらいます。