news letter 「住まいと健康」を考える 東賢一

住環境における光曝露と健康影響について

古来、私たちは日中の明るい時間帯に活動し、夜間の暗い時間帯に睡眠をとるという生活様式でした。しかしながら、電灯が普及し、夜間に活動することが増え、電灯による光の消費量が増加し、夜間に人工的な光に曝露することが多くなっています。

このような夜間の光曝露が、人の体内のリズムを撹乱し、さまざまな健康障害を引き起こすことが近年明らかとなってきました。

脳の中で生成されるホルモンに「メラトニン」があります。明るい光を浴びるとメラトニンの分泌が抑制され、夜間に分泌量が増大します。メラトニンには、生体リズムの調整、睡眠の促進作用、血管拡張作用、抗酸化作用などがあるといわれています。

しかしながら、夜間に約100ルクスの光を浴びるとメラトニンの分泌量が90%抑制され、わずか3ルクスでも10%程度抑制されることがわかってきました。一般的な居間で100~300ルクス、月明かりで1~2ルクス程度ですので、明かりが付いた状態で睡眠をとると、メラトニンの分泌量が抑制された状態になることがわかります。

逆に、日中に2500ルクスの光を浴びると、夜間のメラトニン分泌量が増加することも報告されています。コンビニの照明が約1000ルクスです。

日中や夜間の光曝露とメラトニン分泌量との関係は、実際の人の生活時に行った日本の研究で実証されました。奈良県立医科大学の大林先生らのグループによるものです。奈良県に居住する住民の調査が2010年から実施され、平城京スタディと呼ばれています。

大林先生らの研究によると、日中の光曝露の減少がメラトニン分泌量を減少させること、このようなメラトニン分泌量の減少が、糖尿病、高血圧、全身性炎症、夜間頻尿、筋力低下、うつ症状、認知機能低下に関与することを明らかにしてこられました。

また、就寝前数時間から夜間就寝中の光曝露量が多いほど、肥満傾向やうつ症状を引き起こすリスクが高いことも明らかにされました

日中に光をしっかり浴びて、睡眠の少し前から暗くする、夜間の睡眠時には消灯することで、睡眠時のメラトニンの分泌量が適正になり、生活習慣病の予防や良好な精神健康状態の維持増進につながることが示唆されてきました。

住環境の設計等でもご参考いただければ幸いです。

(参考資料)
大林賢史、佐伯圭吾. 温熱・光住環境と血圧サーカディアン変動:平城京コホート研究からの知見. 日本衛生学雑誌. 2018;73:138-142.
大林賢史. リアル・ワールドの光曝露とその健康影響:疫学研究からの知見. 実験医学. 2019;37:361-365.

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