news letter 「住まいと健康」を考える 東賢一

浸透性殺虫剤総合報告書

浸透性殺虫剤タスクフォース(TFSP)は、浸透性殺虫剤の生態系への影響に関する総合評価書を作成するために世界各地から集まった科学者の集団です。

浸透性殺虫剤とは、植物の茎葉に施用したり、土壌中に注入すると、その薬剤が植物の体内に浸透し、全身に移行して、その植物全体が殺虫力をもつようになる殺虫剤と定義されています。

この評価書では、浸透性殺虫剤の中でも、ネオニコチノイド系殺虫剤とフィプロニルによる生態系への影響について評価を行っています。

ネオニコチノイド系殺虫剤は、クロロニコチニル系殺虫剤の総称です。イミドクロプリド、アセタミプリド、ジノテフラン、クロチアニジンなどがあります。

昆虫に対して強い毒性を有しており、ミツバチの激減がこの農薬の使用によるのではないかと指摘されています。農薬以外にも、ガーデニング用殺虫剤、シロアリ駆除剤、ペットのシラミやノミ取り剤、ゴキブリ駆除剤、スプレー殺虫剤剤、新築住宅の化学建材など広範囲に使用されています。

人にはこれまで比較的毒性が低いとされてきましたが、アセタミプリドとイミダクロプリドの2種類について、低濃度でも人の脳や神経の発達に影響を及ぼす恐れがあるとの見解を欧州食品安全機関(EFSA)が2013年12月17日に公表しました。そして、許容一日摂取量(ADI)と急性参照用量(ARfD)の引き下げを勧告しました。このことについては、昨年1月のトピックで紹介していますので、詳しくはそのトピックを参照して下さい。

TFSPの総合評価書は、主に生態系への影響に関するもので、以下の評価結果を報告しています。
1)現在の大規模な浸透性殺虫剤の使用は、甚大な意図しない負の生態学的結果をもたらしている。
2)環境中から見いだされる浸透性殺虫剤の濃度は、陸上、水中、湿地、海洋および渚の生息地で、広範な非標的生物に負の影響を与えるのに十分な水準に達している。
3)これらの影響が受粉や栄養循環など生態系の機能および安定性、生態系サービスにも危険を与えているという証拠も積み重なりつつある。

TFSPの総合評価書は、日本の科学者有志によるネオニコチノイド研究会によって監訳され、日本語版が5月に公開されています。

「浸透性殺虫剤の生物多様性と生態系への影響に関する世界的な統合評価書」(日本語版)
http://www.actbeyondtrust.org/wp-content/uploads/2015/05/wia_20150502.pdf

英語の原文
「WORLDWIDE INTEGRATED ASSESSMENT OF THE IMPACTS OF SYSTEMIC PESTICIDES ON BIODIVERSITY AND ECOSYSTEMS」
http://www.tfsp.info/worldwide-integrated-assessment/

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