長月 2022

中学生の頃、家族と伴に現在住んでいる処に転居しました。
金沢市内を流れるふたつの河のひとつ犀川の近くにあたります。
1950~60年代はまだ川辺りを流れる水はゆるやかで泳いだり遊んだりする子供たち、大人も洗濯をするなど人と自然の関係があたりまえのように身近でにぎやかだったような印象があります。
少し高くなっている路上添いにからたちの生垣に囲われた家があり、現在は当時と比べて随分小さくなっているものの私にはいつまでも稀少価値の高い存在です。
春あたたかくなると白い白い白い小さな花が暗闇に星の如く咲きます。
秋になれば痛々しくもきんかんぐらいの大きさの果実が成り、モスグリーンからモスイエローに成熟します。
ひと粒手に取ってみると産毛のような細かい毛に被われていて、みどりからきいろにとひと言では言いがたい自然界に育まれた特有の色に染まっています。
夏には密生している棘の群れからヒュンヒュンと野放図に伸びだす枝、何れこの生垣も亡くなるやもしれぬ、ならばと勇気を振り絞って彼の家を訪問、切らせていただきたい旨申し出ますと案ずるより産むが易し、もうすぐ植木屋が来ますからと仰って下さり念願のからたちが入手できたはよかったのですが、どんなに気配りをしていても容赦なく棘が襲ってくるんだから。
花の出自は例え花屋さんで見つけたとしても、あるいは知人からいただいた花であっても嬉しいやら感謝やらの感情移入も含めて、いけることのひとつに加えたい大きな要因となっています。

花材:からたち ひよこ豆
場所:金沢市 彗星倶楽部 中川暁文作品展《漂流する肖像》にて