水無月 2022

驟雨(しゅうう)、わたしの日常生活ではこの文字を書くことも雨が降ったからといって声にだすこともなく只、吉行淳之介の「驟雨」を読んだことがあるという記憶が残っているだけです。
どんな雨だったのかと作中の驟雨を探してみますと、「喫茶店の窓越しに、一本のニセアカシアから緑色の葉が一斉に落ちるという異様な光景を目にして、まるで緑色の驟雨であった」と書かれています。
所謂、急に降りだし間もなく止んでしまう、俄雨(にわかあめ)のことのようです。

字画の多いことから私の驟雨はモヤモヤとした小糠雨を想像していました。
そんな意訳だったものですから透けたカーテンの窓越しに外の景色を見るに似て、射干(しゃが)ひと株を水に浸し硝子の器越しに透かすことで、雨の向うを雨の中に見る見え方の違いをいけてみたのですがちょっと裏腹だったようです。

ちなみに初めて目にした射干の印象は樹間の木漏れ日に答えて咲く白紫色の小さな花とは不似合いな、妙にぬめぬめとした葉の光沢が生々しかったことでした。

花材:射干
花器:藤田喬平「雲母」
置物:黒田征太郎