-
2019年は月を見上げることが多かった。きっかけは満月の晩に祖父が亡くなり、「祖父は月に帰ったんだな」とぼんやり想ったこと。そしてたまたまそのころ上映されていた、人類で初めて月に足を踏み入れた宇宙飛行士、アームストロング船長が主人公の映画「ファーストマン」を観たこと。
月は夜空を見上げれば、いつもそこにぽっかりと浮かぶ身近でいとおしい存在だけれど、どちらの出来事も、月は静かな静かな「死の世界」だということを私に教えてくれた。
私は目を瞑り、何度も月面に降り立ち、月のこえに耳を傾けた。
暗く、つめたく、どこまでも静かでうつくしいその世界を想像し作品を制作する時間は、他の何にも変えることができない大事な時間だった。
展示の一室では畳から陶の花を咲かせた。月の裏側に密かに咲き乱れているのだ。
作品には「月の花」と名付けた。中嶋寿子