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水は全ての命を通り抜け、めぐっている
命が生まれる前から流れ続け
音を奏でている私は水環琴(みなわのこと)という楽器を中心に漆を用いた作品を制作しています。
水環琴は南米発祥とされるレインスティックという楽器を参考に自身で考案した楽器です。
レインスティックが雨の音の擬音楽器なのに対して水環琴は水の流れる音の擬音楽器となっています。
(擬音楽器というのは自然の中にある雨風の音や動物の鳴き声などを模した原始的な楽器の総称です)私は漆を用いてものを作るということにはほとんど必ずといっていいほど何かの「死」が背後にあるように感じています。
それは素材の面で言っても木や竹であったり、植物の繊維であったり、何かの骨や殻だったり…水環琴も分解してみると竹や葦、炭、砂(海や川で採取したもの。貝殻や骨などを含む)などの「死」が集まって出来ています。
そして漆にはそれぞれを繋ぎ合わせ、包み込み「再生」させる力があると思っています。
かつて水がめぐり、空気を通し、時間が流れていた物が集まり、一つの筒の中で水の音を奏でる。
奇しくも筒の内部に打ち込まれた弦はDNAを思わせる二重螺旋の構造になっています。
私は制作と演奏を繰り返すうちにこの楽器はまるで「死」と「再生」を繰り返す生命のようだなと思うようになりました。この不思議な構造を見ているとかつてレインスティックを作り出した人々はいったいどのような思想や信仰を持っていたのか、どう使っていたのか、本当の名前は何だったのだろうかと、つい思いを馳せることがあります。
単なる偶然とは思えないほどに楽器自体が生き物の構造と本質を表していて、深い自然観や死生観を持っていたことが窺えます。時代も土地も生活様式もかけ離れた現代の日本に生きる私がなぜこの楽器を作るに至ったのか、私自身も明瞭に説明できない部分は多いですが、不思議な縁を感じています。
この楽器をどう使っていくのか、また、どう使われていくのか。これからの探求と活動を通して見出していきたいと思います。