甦った『盤泉荘 Bansenso』を訪ねて

愛媛県大洲市柚木

盤泉荘 Bansenso

盤泉荘 Bansenso

大正期の別荘建築を平成29年度から建築文化や耐震化など保存と活用事業を進めていた市指定文化財「旧松井家住宅主屋」の改修工事が完了し、この6月1日から一般公開された。

建築主である松井伝三郎(でんざぶろう)[1870~1920]・国五郎(くにごろう)[1875~1945]兄弟は、フィリピンのマニラで貿易会社を経営して大きな財を成した人物で、本住宅は国五郎が故郷に別荘を建築しようと計画した兄の遺志を継いで大正15[1925]年に完成させたもの。肱川随一の景勝地である臥龍を見晴らす高台に立地し、50メートル以上掘削された裏山の岩盤からしみ出す「横井戸」の水を利用していたことから「盤泉荘(ばんせんそう)」とも称される。

東南アジアから輸入された貴重な南洋材を使用したほか、当時の日本家屋には珍しいバルコニーや鬼瓦に松井国五郎の頭文字「K.M」を刻んだものを採用するなど、貿易業を営んだ建築主らしい国際色豊かな特徴が見られる。高台の急斜面にせり出すように建つ木造3階の建物。窓からは、柚木の町が一望でき、肱川や冨士山、柳瀬山、亀山などの典雅な自然景観が眺望できる別荘地としても最適な場所に建築されている。

建物の名称は、俳人の西本一(いっと)都が、「盤泉荘」と詠んだことに由来しているという。良質な栂(つが)や黒(こくたん)檀が使用されているほか、東南アジアで選び抜かれた南洋材が廊下に20枚連続して使用され、重く硬い南洋材「イピール」を丁寧に仕上げた長大(2.5×1.0メートル)な一枚板が20枚連続する廊下。座敷・客間・茶室へと続いている。鬼瓦にはイニシャルの「K・M」を用いる。

座敷は、高天井に筬欄間(おさらんま)、床框(とこかまち)・違い棚・付書院に見られるシンプルでありながら荘厳な座敷飾りなど、格式の高い伝統的書院造りとなっている。窓からは、冨士山や肱川などを一望できる。「伊予の青石」をふんだんに配置している庭園。山水画の世界を想像させる。伝統的技術と近代的技術を駆使しながら、数寄屋造りと伝統的書院造りを組み合わせた近代和風の貴重な別荘建築として評価されている。

美しさを奥に秘めた、簡素で品格ある格調高い建築がまた一つ甦りました。