長押

もともとは構造材だった「長押」も、いつしかインテリアを構成する装飾部材となった。

構造材としての長押は、貫を入れられない面を固めるためのものだから常に鴨居や無目とセットになっていた。壁の部分では他との見た目のバランスを考えてか〝付け鴨居〟が付けられた。付け鴨居はしかし、おそらくは長押の下端と左官壁との取り合いのための見切りとして必要だったと考えるのが合理的な解釈だろう。おかげで水平線が途切れることなく部屋中を回ることとなった。
「五十八賞」の吉田五十八はこの〝付け・・〟の手法を駆使して壁面を構成する手法を確立した。物足りない面には付け柱などしてまとめ上げる便利な手法ではある。
日本びいきのフランクロイドライトは、日本の真壁造の美しさに惚れて?壁面を線で構成する、五十八風の手法を採り入れたのではないか。ライトの作品が付け鴨居だらけに見えたものだ。

長押には品格がある。そのせいだろうか、かつてはなぜか安アパートの四畳半にも長押が回されていた。長押を付ければ少しでも家賃を上げられると、大家は考えたのかも知れない。
美も品格も関係ない子供のころ、長押は実用のためについているものだと思っていた。
事実、蚊帳を吊るのに長押に輪っかを引っ掛けたり、ハンガーを掛けたりした。長押挽きされた断面のせいで長押と小壁の境目には空きがあった。そのせいで物を引っ掛けやすいのだが、指も掛かるからよくぶら下がって遊んでいた。そのすき間は目線より上で見えないところだから小さな物を隠したりもした。
部屋の品格の象徴だったせいか、長押や床柱にはけっして釘を打ち付けることはなかった。何かを引っ掛けるために釘を打つとき、壁にはとうぜん無理だからもっぱら付け鴨居に打つ。柱時計はそれより上だから、仕方なく柱に打って掛けた。
壁に物を直接掛けることはしづらい。釘を打ったり釣り金物を取りつけやすいように〝付け長押〟を壁面に取りつけたのはハウスメーカーだったろうか。壁を傷つけずに重い物でも掛けられるアイデアは良いと思うが、最近はなぜか見かけないようだ。

シェーカー家具で知られるシェーカー教徒の家には実用のための〝付け長押〟が備わっている。
便利な付け長押。壁面の制約に苦労する日本の現代住宅にも採り入れられて良いのではないか。

長押

長押