質素なつくり

仕事の関係で知り合った人から建て主を紹介された。30年以上前のことだ。
小さな土地だから小さな家しか建たない。そのうえ予算は限られていて、工務店もその人の知り合いのところが施工することになっていた。その工務店は数寄屋造りが得意ということなのだが、予算的に数寄屋なんてとても無理だろうと思えるのに、意欲的に何とか図面通りにやってみたいとおっしゃる。
それではと、あまり大げさにならない程度で〝数寄屋風〟のデザインを試みた。

数寄屋造りには定まった形式がないといわれる。
無駄なものを削ぎ落とし、質素で簡素、かつ繊細で洗練されたデザインを追求するものと自分なりに解釈している。様式も形式もなければデザインはやりやすい。
無駄な装飾を省き、直線美を活かしたデザインを追求すれば〝数寄屋風〟のローコストハウスがつくれるだろう。そんな〝風〟に考えた。

そもそも「数寄屋造り」なんて、イメージでしかなかった。今でもそうだ。思いうかぶのは大好きな桂離宮くらい。「桂」はシンプルで美しい。シンプルならば、そうするための作業は増えて時間も掛かるが、デザインとは元々そういうものだ。
シンプルな造りなら材料も手間も少ない。高価な材料さえ使わなければコストダウンが図れる。

というわけで〝数寄屋風〟へのチャレンジとなった次第。

鴻巣の家

鴻巣の家

鴻巣の家

撮影:岡本茂男