鳥瞰図

雲間に漂うトンビ。子供のころ、空を見上げていつまでもボーッといたのを思い出す。今でもトンビに出会うとつい立ち止まり、その優雅な姿にしばし我を忘れる。
たかがトンビになぜそれほど見入ってしまうのだろう。それはトンビが翼をひろげたまま宙に浮いているせいではないか。ふだん目にする鳥たちは常に羽ばたいている。トンビだけ、なぜじっとしていても落ちてこないのだろうと首をかしげる。対照的に、昆虫のように羽ばたくハチドリはなぜ疲れないのだろう。そんなことも子供のころ不思議に思ったものだ。

♫トンビがくるりと輪を描いた~・・・
大きな身体でただ翼をひろげているだけなのに、なぜ大空を漂っていられるのか。
微動だにせず、そのまま上昇し続けてどんどん小さくなっていく。ときおり、こんどは少しづつ大きくなりながら輪から遠ざかる。しばらくすると、また輪を描きながら見えなくなるほど小さくなってゆく。
地上で暖められて上昇する空気は高空に達すると冷やされて、それ以上上昇しなくなる。それまでずっと上昇気流の中を輪を描きながら昇っていたトンビは、そこを出て新たな上昇気流をさがしに行く。そうやって上昇気流から上昇気流へ、地上の景色を楽しみながら渡り歩いているのだ。
トンビは大空にキャンバスを広げて地上の姿を描く。これが鳥瞰図だ。鳥瞰図は建築でも全体を説明するのによく使われる。総理大臣が客観的・俯瞰的などと言っているが、トンビが描く鳥瞰図はそれとは違う。
トンビは描きながら獲物のいそうな場所をさがしている。Googleなんて便利なものはないから、自分の目だけで、ゴルフ場のような獲物を見つけやすいところに、本能的直感で赤いフラッグを描き込んでゆく。ドローンの映像などとは訳がちがう。
腹が減ってくると、小さな動物を把握できるくらいまで降りていって、フラッグを頼りに地上の獲物を探しはじめる。空腹を抱えて待っている子供たちには♫ピ~ヒョロロ~~もうじきだからねぇと合図を送りつつ野ネズミなどを探すのだ。

お隣の野ネズミのチュー君は、小さなキャンバスを空色でうめながら天敵トンビにフラッグを立てる。これがチュー瞰図だ。昼間に行動するときはこれを使うそうだ。敵の居場所を把握しておいて突然の襲撃にそなえる。チュー君は頭脳派だ。
ボクの場合はトンビにおそわれないから安心だ。小さくってトンビには見つけられないし、捕まえることもできないんだ。だってアリンコなんだもん。
アリンコだけどキャンバスと絵の具ぐらいは持っている。もっぱら自然界のディテールを描いている。できあがった絵は虫瞰図と呼ばれている。時には人間の足の爪だって描くけど、地面に落ちたドングリや、地中のミミズの顔や、それを食べにくるオケラの口元なんかがいい題材になっている。
建築の設計をする人たちも、ボクたちが虫瞰図を描くときのものの見方や観察力を身につければ、ディテールのデザイン力はもっと上がると思う。

なんだったら教えてあげてもいいけど・・・

大野正博