千鳥階段

だいぶ前のことだが、製材所の大きな倉庫でふしぎな階段と出会った。
段板の巾が左右で違っていて、広い方に足をのせて昇る、つまり一段に片足しかのらないのだ。一見するとどう昇り降りするのか見当がつかない。段板は互いちがいに右足用、左足用 とつづく。しかもずいぶんと急な階段だ。
なんだこれ!? 近寄っていって昇ってみた。
とうぜん巾の広い方に足をのせることになるのだが、まずそこでとまどった。どちらの足が先か? まちがえたら足がこんがらかってしまう。はじめに段にのせる方の足を決め、昇りはじめるとこれが意外と昇りやすい。あっという間に上に着いた。急な分だけ段数が少ないせい?・・いずれにしろ、少ない歩数でたどり着くという快感があった。
こんどは降りてみる。急な階段にありがちな恐怖感がない。足をのせる巾広の部分が交互に並んでいるのが目に入るせいだろうか。片足しかのらない巾広のところに、誘導されるように自然と足がのびる。2、3回昇降するうちに気がついた。動作自体が楽しい。これは快感だ!!
使う人を見ていると みな駆けるように昇り降りしている。忙しいせいかとも思ったが、床にたどり着くと今度は普通に歩いているから、昇降するのに適度なリズムとスピードがあるのにちがいない。この階段でタキシードやドレスでゆったりと昇降する姿など、まるで想像もつかない光景だ。
わずかしかスペースを取らないでいて充分に機能している。さすが倉庫にピッタリの階段だ。

この階段を上り下りする人の姿は、チャップリンがバカでかい靴をはいてステッキ振りながら腰をフリフリ歩く後ろ姿にそっくりだ。動きがかわいらしい。ペンギンのようでもある。骨盤がよく動くから、腰痛なんてかんたんに治るかもしれない。
昇り降りする人のうごきをよく観察してみると、酔っぱらいの千鳥足みたいなので「千鳥階段」と命名した。
♫ 青い月夜の浜辺には~ 親を探して鳴く鳥が~ 波の国から生まれ出る~~ ぬれた翼の銀の色~ つい口ずさんでしまう。

ロフトの階段など、わずかなスペースを利用して設置する場合などでこの千鳥階段のお世話になっている。
千鳥階段を昇降しやすくするには、機能的にも視覚的にも段板を工夫する必要があるが、それだけデザインする余地があるということでもある。
階段は家具や照明器具とおなじように、使用していない状態でもその存在感は大きい。空間全体とのバランスもさることながら、けっして見苦しくあってはならないのも同様だ。
とくに千鳥階段は、はしご段のように独立しているために存在感があり、かつ目立つ。

使い勝手に、見た目に、工夫をこらして ”イッピン” を生みだしたい。

千鳥階段