べらぼうな生けす

日本海を「生けす」にする構想がある。もちろんボクが考えた。
地図で日本海だけよくよく眺めると琵琶湖にも似てはいるが、見ようによっては胃下垂で変形した「胃」に見えてくる。地図を回転してみると分かりやすい。
生けすに出来そうに思ったのは、日本海の所々を網でふさいでやれば魚を閉じ込められるようにみえたからだ。養殖も可能な生けすは広いに越したことはない。魚たちが自由に活動できる。狭さにいじけた魚は不味いのだ。

日本海を「生けす」として閉じるのは簡単だ。北端は大陸とサハリンのわずかなすき間に網を張る。南端は少し広いが、韓国のプサンから津島と壱岐を経由して佐賀の唐津あたりまで網を張る。あとは宗谷海峡と津軽海峡。関門海峡は狭いから無視。
つまり4カ所を「入れるけど出られない」網で塞ぐ。これだけで超巨大「生けす」の誕生。問題は国際的な合意を取り付けることだ。
日本海には見えざる国境線があるので、「生けす」で養殖などするにしても国際協力が必要だ。栄養豊富な漁場にするには各国の河川の管理も不可欠。流域のプラスチック規制もしてもらう。将来的な地球規模の食糧不足や、肉だらけの現代人の健康志向を考えれば反対する国はないだろう。「日本海」という呼び名が気に入らないという国もあるようだが、このさい名前などこだわらず単に「魚海」でいい。どうせ海のようにひろい生けすなんだから。ミサイルは厳禁。養殖魚がショックで子を産まなくなる。反対方向の黄海にでも飛ばしてもらおう。軍艦も出入禁止。許されるのは水生生物の運搬船のみとする。

「魚海」の運営はまず国際漁業協同組合をつくることからはじめる。略して「魚海国際漁協」。「魚海」の名を地球の裏側にまで知らしめるには、交番が”KOBAN”になったように、魚海を”GYOKAI”として世界中に広めよう。魚海国際漁協の最初の仕事だ。
生けすの真ん中に大型タンカーを並べたような浮体式空港をつくり、採りたてのカニやエビや鮮魚をアメリカやヨーロッパに直行便で送る。やがて、新鮮味を体感した人たちが採りたてをその場で味わいたいと、旅客機で大挙して「魚海」にやってくる。そうなると空港の滑走路の下の、それまで魚の処理や加工場に使っていた場所にプラスして”おもてなし”の場が必要となる。空港の内部には新鮮レストラン「魚海」とか「本家GYOKAI」などの看板が並ぶことになる。空港にできた「海の駅」だ。
あふれんばかりの客は「食」だけでは満足しない。”浮かぶホテル”と共にカジノと遊園地をセットにした一大海洋ワンダーランドをつくる。アザラシの乗った流氷を北海道から曳いてきて、流氷のリング上のアザラシとカンガルーの格闘技を観戦しながら、クジラのステーキに食らいつくイベントも企画しよう。全面ガラス張りの潜水艦を「水族艦」に仕立て、人間をエサと思って突進してくるサメの恐怖を体験する、「魚!GYO!ギョッ!」コースも一生の思い出になる。
水に関係するすべてのスポーツ競技場を浮体上に整備する。観客席は開閉式の全天候型ドームを採用、スケートリンクも常備。
年6場所の大相撲の一つを「大相撲魚海場所」として開催してもらい、「海鮮料理とスモウ観戦」で集客する。力士も鯨肉入り海鮮極上ちゃんこの「魚海場所」を心待ちにするから、いつもより元気が出るかも。優勝者には副賞としてマグロやクジラを丸々渡す。表彰式は大いに盛り上がるだろう。

広大な生けすには、豪華客船クルーズ「GYOKAI」を浮かべて「魚海」の世界を満喫してもらう。日暮れとともに夜光虫に囲まれる夏の静かな海では、魚と一緒に泳げるプールやウォータースライダーを用意する。
魚のつかみ取りのイベントもある。船を超えるつもりが間違ってプールに跳び込んできたトビウオを捕まえ、レストランで調理してもらう。もちろん無料だ。
映画館では「ファインディング・ニモ」や「イルカに乗った少年」、嗜好の違う人には「パイレーツ・オブ・カリビアン」や「ジョーズ」なども常時上映されている。
クルーズの底は床までガラス張りの展望レストラン。冬の荒海でも海の中はいたって静か。ディナーでは光るホタルイカを鑑賞しながらイカづくしのコース料理を楽しむ。デザートは海中花火を見ながら・・・
「GYOKAI」の沿岸周回コースでは「海鮮満願全席」のセットプランを提供する。行く先々の名物料理を楽しみながら、日本では海中阿波踊り、ロシアでは海中バレー「白鳥の海」、朝鮮では竜宮城の乙姫さまの舞い踊りを鑑賞できる。タコの”躍り食い”や採りたての魚をキムチで巻いた「キムチ巻き」もすこぶる美味い。

草を喰わせて肉を食う!?
効率の悪い陸の牧畜と共存しながら、「魚海」の海の牧畜が発展することを夢見る。

生けす

生けす