床に寝る

寝室は畳にしてくださいと言う建て主がいる。
これには二つの意味がある。ひとつは「布団を敷いて寝る」つまり寝室でベッドを使わず床に寝る。もうひとつは「普段は和室、夜は寝室」として部屋を多目的に使いこなすという、日本のむかしの住まい方を現代に再現するような使い方。
リビングの一部を和室にして、明るいうちは庭でもながめながら昼寝。暗くなれば家族みんなで「今宵は鍋」。
親類が集まればそこに泊まってもらうなど、「多目的ルーム」として和室を使いこなすというのもある。

自分たちの寝室を和室にした夫婦がいた。子供部屋二つは洋室にベッド。
そのように設計してその通り完成したが、子供たちもベッドを入れず布団での生活をはじめた。両親の部屋とくらべて、自分たちの部屋がベッドで狭くなるのがいやに思ったのかも知れない。
ところが・・子供たちが大きくなったらいつの間にやら万年床。一体全体!・・・
そんなことならベッドの方がいいと思うけど・・・

寝室はフローリング。そこにマットを敷いて寝るという建て主もいた。
マットレスの折れ目が気になるのではないかと心配したが、「巻きマットを使うのでだいじょうぶ」「巻いたマットを縦置きで二つしまえる収納が欲しい」というハッキリした注文。夫婦二人だけの家なので、使わないときは何もない、サッパリとした部屋にしておきたいということなのだろう。
もしかしてストレッチルーム?それとも瞑想室?。

設計図にベッドが入れてあったのに、住みはじめたら布団で寝ている夫婦がいる。
どうやら、出来上がった寝室が思っていたよりいい部屋になったと感じたからのようだ。こんな気持ちのいい部屋にベッドを入れたら、床は見えなくなるし自由に動けないし、もったいない・・・理由はこんなところか。
たしかにいい部屋だ。奥の障子を開ければ急斜面の竹林。竹の隙間からは遠くの町を見下ろす景色もある。昼は書斎にも使えそうだし、低い勾配天井はリラクゼーションルームにぴったりの感じもする。
それにしても、この部屋はベッドの想定だから押入がない。部屋に接する納戸は予備の寝具をしまうことまでは想定してあるが、毎日の布団の出し入れは想定外。
きっと物が入りきらない状況が発生していると思うのだが、その問題以上に寝室を有効利用したいということなのだろう。ものを減らすか、工夫してなんとか押し込めるか、いずれにしろ頭脳が活性化される状況ではある。
狭い日本列島。
小さな土地の小さな家なのに、夜しか使わないベッドルームで面積を取られているのはもったいない気もする。

新居に住みはじめたら子供ができたという例をいくつか見てきた。相談されても部屋はなし。大きめの納戸を将来子供部屋にと答えたものの・・・納戸の中身はどこへ行く???

住まいは想定外のことが起こる世界だと認識しておこう。

床に寝る