屋根を抜く

リフォームというか、新たな設計というか・・・

鉄骨3階建。ウナギの寝床のような細長くて小さなビル。1階は仕事場、2,3階を住居にしている家族から相談を受けた。
周辺はビルが建ち並ぶ都会の密集地。緑なんてまったくない。窓があっても日が入らないから、まんなか辺の部屋は一日中真っ暗。そのうえ小部屋ばかりで仕切られているから、家のゆとりなんてゼロ。
夕食が終わると、それぞれの部屋に散ってTVを観てすごすなど、家族の生活はバラバラ。この状況を設計力で何とかしてほしいという相談だ。

窓口は奥さん。要望を聞くと、まずは家族が団らんできるような部屋を。明るく、風通し良く、緑もほしい。
この建物でそんなこと、どうやったって無理でしょう! 家族が団らんする部屋はともかく、「風通しが良くて明るくて緑があって」なんて無理、むり、ムリ!!
とはいえ・・・考え抜いて出した結論は「中庭」だった。屋上をぶち抜いて、そこから太陽と風を引き込む。無理難題な要望を突破するにはこれしかない!

3階の、中庭を視界に入れた、明るくて風のよく通るところに家族が集まる場所を設定し、提案した。
奥さんは「スゴイ!」と喜んだ。ところが・・・ご主人と、そのお父さんが「反対!」
理由は、金は掛かるし部屋は減るし「もったいない」だった。
それからしばらくのあいだ、音沙汰がなかった。家族の間でもめていたのだろう。そしてあるとき奥さんから連絡があり「屋上を抜いてください」という連絡。奥さんが男どもを説得したのだろうと勝手に解釈しているが、それからが大変だった。
構造上の問題はチェック済だったが、防水工事とその工程をどうしようということになった。1階は仕事場として使用中。工事中の雨漏りなんて絶対に許されない。
いちばん悩んだのは現場監督さんだったが、3階の中庭の地面にあたる部分の、防水と排水工事をまずしっかりやり、その後に屋上を抜くということで解決した。

3階は、中庭をはさんで茶の間と子供部屋二つ。視線を下げた掘りごたつ式の食卓からは中庭の向こうに空が望める。小さな中庭は、雨も落ちるし雪も積もる自然の窓口だ。
小学生と中学生の男の子の気配も、ガラスを通して充分に感じることが出来る。懸案だった「緑」は、中庭から外階段でつなげた屋上を、目いっぱい活用して実現した。
朝、子供たちと男どもを送り出した後、屋上でひとりコーヒーを飲みながら、空と緑を楽しむのが奥さんの日課となった。
子供たちは、学校から帰ると双眼鏡をもって屋上へ飛び出し、旅客機をながめるのが日課となった。家のつくりが家族の日常をこんなにも変えるものかと、つくづく感じたものだ。

家のつくりが変わっていちばん喜んだのは、じつはご主人とお父さんだった。
夕食後、中庭を眺めながら皆で団らん。やっと家族らしくなった。
そして・・それを横目にほくそ笑む奥さん・・・なんだか楽しい。

両国屋上

両国中庭