障子の機能はもっぱら採光や目隠しとして使われている。が、その機能を発揮させているのはじつは和紙の特性による。
ダイヤモンドカットされた宝石は、採りこんだ光をカット面に反射させて宝石の内部をグルグル回してから放出する。つまり、光をいちど蓄えてから放出するから輝いて見えるのだ。
ダイヤモンドほどではないが、和紙の場合も、光が紙の繊維ではね返り、蓄光してから四方八方に飛び出していくから、障子は光って見える。
外からの光で床がピカピカ光ってまぶしい。そんなとき、障子を閉めたとたんに部屋全体が柔らかな光に包まれ、閉めたはずなのに明るくなったような気がすることがある。和紙の中で乱反射した光が、壁の上部や天井までも届くせいだ。明暗のコントラストが強い状況とは正反対の、明るさも暗さもないようなボワーンとした部屋の雰囲気は、まるで空気に色でも付いたかような錯覚におちいる。これが空気感というものなのだろうか。
和紙を張った照明器具やあんどんが、光源のまぶしさを抑え、かつそれ自体を光り輝かせる。照明器具やあんどんが、和紙の特性を最大限に発揮させる構造であることが、これでよく分かる。
外が暗ければ、部屋の明かりはガラスを素通りして出ていってしまう。そのときガラスは黒く、鏡のごとく部屋の中が映り込む。同時に外からの視線に不安も増す。
夜の障子は、目隠しもさることながら黒いガラスをまっしろに変身させる。それどころか、和紙のもつ特性で部屋の明かりをはね返し、白くかがやく壁となる。
障子がカーテンなどと比べて断熱性が高いことは、あまり知られていない。
カーテンやブラインドとガラスとの間の空気はうごきやすい。ガラスで冷やされた空気は降りていって足下を寒くする。暖められた空気は上昇する。いずれにしろ、そこに留まっているわけではない。
障子は四周が閉じている。おかげで、動かない空気が断熱材の代わりになって障子に断熱性を付加する。閉じていないカーテンとの差は大きい。
障子の両面に和紙を張ればその性能はあがり、防音性能も獲得する。見えていた組子も、オブラートにくるまれて上品な姿となる。
両面に和紙を張り重ね、断熱や防音に特化して性能を追求したものが、いわゆる襖だ。
撮影:垂見孔士