ペアハウス

建売住宅はいくつも手掛けてきた。そのなかに「ペアハウス」と名付けたシリーズがある。

ペアハウスは、ひとつの土地を真っ二つに割って左右に1棟づつ建てる。もとは事業主のアイデアだ。
通常の分け方だと、道路に面した家と、その奥の旗竿状の敷地に建てた家。それではあたりまえすぎる。2棟同等の価値をもつ建売住宅にしたい。真っ二つの縦長の敷地では設計もむずかしかろうが、プロの技で何とかやってみて欲しい、というのがそもそもの発端だった。
最初がうまくいったので、次もその次も同じ事業主で建て、どれもすぐに売れた。
東京の高級住宅街では、別の事業主によるペアハウスを建てた。これもうまく納まった。「ペアハウス」は4件で8棟の実績がある。

注文住宅でも建売住宅でもアパートでも、自分が住むつもりで設計すれば悪いものが建つはずがない。そんな信念でいつもデザインしてきた。それがたとえ犬小屋であろうとも、犬になったつもりで設計すれば、不安感のないストレスフリーの小屋で、犬にも幸せを届けることができるだろう。
どんな住まいでも、自分が生活するつもりで設計すれば、使い勝手はもちろん、構造強度も断熱性能も通風も採光も、至れり尽くせりとなるのが当たり前とおもう。

縦長の敷地の細長い家では、日照と通風を獲得するために京町家のごとき中庭が自然発生する。それを最大限に活かし、視界の拡がりなどにも可能なかぎり利用し、快適な家づくりを追求する。
玄関の近くには自転車置場も、物置もつくる。物干し場も、目立たないところに風通しと日当たりを考慮して設計しておく。その結果として、建売住宅らしくない、それどころかオシャレな注文住宅以上に、個性的で住みやすい家となる。間取りもファサードも。
売りに出したら、あっという間に買い手がついたのも当然と言えばとうぜんだろう。
写真のペアハウスは、偶然にもご兄弟でそれぞれを購入した。事前に分かっていたなら二世帯住宅として設計できたのに・・・そんなはずもないけど・・ちょっと残念。

ペアハウスシリーズを手掛けるにあたって、おおいに意識していたことがある。
せっかく二家族が寄りそって生活するのだから、前庭やアプローチなどを共用部分のようにデザインしておけば、隣同士、お付き合いがしやすくなるだろう。
本当はペアの二軒ではなく、三軒並びで対面ににも三軒あるような、集住のメリットを強調したデザインをやりたい。向こう三軒両隣という、集合することによる近隣のにぎわいのような環境を追求したいのだが、その希望はいまだ実現していない。9軒分の敷地を用意するからやってみないかと言われたこともあるが、ただの横並びの土地で、対面側をデザインできないため、断念した。

建売住宅にこれだけ精力を注いでいるのに、残念ながら自分の家を設計する機会がない。

ペアハウス坂戸Ⅲ

ペアハウス坂戸Ⅲ

撮影:岡本寛治