家づくりでの出会い

穀雨・葭始生

鹿児島で武家住宅の系譜を継ぐ建物の改修工事を進めています。
町並保存地区に指定されている地域に建つことから、私がこの家の改修に求められたのは、町並を維持しつつ、現代の暮らしに適した住まいを実現することでした。
どちらも譲ることの出来ない大切な条件です。

町並を維持するために、外部の姿を可能な限り残すことが求められました。
そのことは内部の改修に制約を与えることになります。

また、建物が建てられた当時と現代では、あまりにも暮らし方が違います。
そこは「不便なことよりもこの建物に暮らして得られることの方が有り難い」という施主の気持ちが補ってくれます。

工事中、古い建物の調査・保存に係わっている専門家の知人に、偶然、建物を見て頂く機会がありました。
「古い建物の改修では、その歴史を尊重して受け継いでいくことが大切です」との助言を頂きました。
今まで施主や大工さんと話していたことに通ずる言葉で嬉しかったです。

町並に感謝する施主が起点となり、伝統技術を持つ大工との出会い、町並維持を続ける行政の助言、調査・保存の専門家の訪問、そして全体の調整役を務める私が集まりました。

今ではこの建物が私達を呼び寄せたように感じています。

家づくりでの出会い

「麓の家」
大工:田口幸男
設計:木下治仁建築設計事務所