茶の間

「小さな村の物語 イタリア」という番組を毎週、欠かさずみている。
イタリアの南から北まで、港町や街中や緑ゆたかな高原から岩山につくられた町まで、さまざまな環境で生活する人々の日常生活をとりあげたドキュメンタリーだ。
郊外に住んでいる人が、家からすこし離れたところに馬や羊をペットとして飼っていたり、歌や楽器でバンドを組み、聴衆の前で披露して楽しんでる人たちも出てくる。木工、鍛冶、左官などの職人が、村の人たちの生活に溶けこんで仕事をしている姿なども、頻繁に、ていねいに取り上げられている。
都会や外国に出て生活していた人が「やっぱりここが落ちつく」と言って村にもどってきて、あらためて故郷での生活になじんでゆく姿を、たんねんに紹介したりもする。男女の出会いや別れなど、機微に触れながら、人々の流れゆく日常をさりげなく映像化している。

イタリアは国土が狭いせいか山ばかりで平地が少ないせいなのか、庶民の家はどれも小さいようだ。日本と共通点がありそうに思う。
番組で必ず出てくるのが食事の風景。家のなかでの家族の様子がよくわかる。
手間ひまかけてパスタをつくるところから、それを手伝ったり、味見をしてうなずき合っている老夫婦。母親からレシピや作り方を教わる娘など、ことこまかに紹介している。
食卓に盛りつけられた料理がそろう頃、仕事場から駆けつけた家族や同居人がつどい、にぎやかなランチタイム。このスペース、いわゆるLDK.が、日本では考えられないほどコンパクトな空間で、はじめてこの番組をみたときはその狭さにあぜんとしたほどだ。スペースのほとんどを食卓が占め、調理台や配膳台も食卓が兼ね、片隅には造りつけ暖炉が設けられていたりする。家族が食卓に着くと、その周りは人がやっと通れるほど。床はほとんど見えない。
だんらん風景が活き活きして見えるのは、この狭さゆえかもしれないと思うほどだ。

テレビドラマなどに出てくる欧米の一般的な家庭では、KIT、DIN、LIVそれぞれにスペースを確保してある。部屋が広いせいか、床もたっぷり見える。食事が終わるとリビングやファミリールームなど、別の空間へ移動してその後の時間を過ごす。日本人にこんな生活が真似できるだろうか。そうしている人もいるのだろうが、ぼくには無理だ。
いわばワンルームともいえるイタリアのLDK.は、なんとなくわれわれ日本人の生活パターンと似ている気がする。どこか日本の茶の間の雰囲気が漂っている感じがするのだ。

茶の間
撮影:相原 功