細長い土地

細長い土地と聞くと大方は商店街にあるような間口が狭く奥行きの長い土地を思い浮かべるだろう。が、今回はおなじ細長い土地でも間口の方が長~い土地の話だ。

南側が河川の土手に接している南北に長い土地。土手の上は道路状になっているので、角地といえば角地にはちがいない。東側が道路で「間口」が60メートルもある。それに対して奥行は12メートル。奥行はまあまあとしても60メートルはあまりにも長い。
かつて東京湾から運んだ海苔を荷揚げ、加工していたそうで河川に接しているのはそのためだろう。前面道路の拡幅で土地を削られ、間口の割に奥行の少ない土地となってしまったがそまま住み続けてきた。大きな家に女の子3人の若い5人家族とおばあちゃんの6人で住んでいたが、必要のない部屋ばかりの古くて寒くて薄暗い家だった。
若い家族はコンパクトでいいから気持ちのいい家に建てかえたかったが、おばあちゃんは「あたしの目の黒いうちは建て替えなんてダメ!」と言い張っていた。ところが孫娘の一人が病気で入院するとおばあちゃんに変化が現れ「建て替えようか・・」そのひとことに家族が瞬時に反応し「チャンス!!」というわけで僕が呼ばれたという次第。

これまでの家は南北に長い土地の北寄りに建っていた。残った南側の土地は庭といえば庭かもしれないが、見た目には土手につながる細長いただの野っ原。部屋からながめたいとか出て行って気持ちよく過ごしたいというような「庭」のイメージなどまったくなかった。
新築にあたっては、細長い土地の中央部が道路の反対側にふくらんでいたのでそこに家の「芯」を持ってきて道路側に中庭を設け、中庭を挟んで北におばあちゃん、南に息子の家族と大ざっぱに分けた。北端には車庫と倉庫が一体となったものを別棟として建てた。
中庭の道路側はえんがわを挟んだ客間で、中庭の三方をおばあちゃん、息子の家族、客間で取り囲み、中庭にクッションの役割を持たせている。客間の奥には夫婦の寝室と浴室を設けた。
道路に沿って外廊下を設け、道路と中庭の関係を和らげるとともに、おばあちゃんの玄関と若い家族の玄関を結んでいる。
子供たちの部屋は南の庭に面した居間の上で、吹きぬけに沿って設けたストリップ階段で連絡している。3つ並んだ子供室からは土手の向こうの遠くの景色をながめられる。

新居での様子を聞くと、中庭に面した食堂から孫たちの「おはよう」を合図におばあちゃんが廊下伝いににやってきて楽しい朝食が始まるそうだ。中庭効果が発揮されている。

工事中はおばあちゃんと手をつないで現場を案内し、気持ちを前向きに保ってもらうように努力した。
竣工のあかつきには二人でカラオケに行く約束もしたが、残念ながら果たせていない・・・いずれはと思っている。

細長い土地

細長い土地

撮影者:不明