お神楽

御神楽といえば、神社のお祭りに神楽殿で披露される舞を想いえがくが、じつは建築用語にもあって平屋の家に2階をのせるのを「お神楽」という。
40年前にこの「お神楽」を依頼されたが、これまでの経験でお神楽はこれ一軒のみだ。
平屋の医院の上に院長の自宅をお神楽した。四角い平面の平屋にコの字の平面の2階を載せた。構造的な安定を求めて家の周り3方に地面から立つ壁を設けたため、この建物は1階より2階の方が大きい。医院らしい外観にして欲しいという院長の要望もあり、住宅っぽくないデザインを追求した。
2階の住居はコの字型の抜けた部分を中庭風のデッキとしている。これにより外周壁の窓を減らし、オフィシャルな外観を生みだしている。
院長はおもしろい人で要望もユニークだった。2階のデッキの南側は冬は陽射しを採り込み、夏は遮りたい。とうぜんだが、それを「夏にあって冬にない」そんな庇は出来ないものかと表現する。考え抜いてこちらも応えた。夏の日除けにルーバー状の庇をつくり、それを冬場は移動させて消し去ることを考えた。コの字のデッキの東西の庇の先にレールをつけ、それを頼りに南側の日除けを動かし、冬場はデッキの南に寄せるようにした。
大成功!
ところが思わぬ出来事が・・・台風の時に庇が行ったり来たり・・あわててストッパーを取り付けて動かなくした。まあ、一応は成功でしょう・・・。
 
他にもあった。リビングの高窓が想定外の現象をもたらしたのだ。
高窓は部屋を明るくしてくれるが、暖まった空気は上の方に溜まって冬場の高窓には結露の心配が生じる。現代ならペアガラスも高性能の機能ガラスもあるが、40年前の高窓では間違いなく結露する。しかし明るさと結露のどちらを採るか秤にかけ、この場合は明るさを優先した。夏場用に溜まった空気が少しでも動くようにと高いところに換気扇も設置しておいた。ところが住みはじめた院長いわく、高窓のおかげで室内の空気が循環して上下の温度差がなくなっていい。空気が滞らないので結露も起こらないとのこと。偶然ではあるが、おかげで新たな高窓効果を発見することとなった。
 
お神楽

撮影:岡本茂男