水面から・・・

美術館の前庭あるいは公園や広場に水を張って水面に映り込む景色を鑑賞したり、滝や噴水を仕掛けてダイナミックな姿や音を楽しんだりする。大きな空間づくりには、そういった水を利用した環境デザインの手法がある。
住宅で水を楽しむには滝や噴水は大げさだし、そもそも音がうるさい。せめて”シシオドシ”で静かな音色を楽しむか、池で鯉を飼うことぐらいだろう。
鯉を飼うには大きな池がいる。広い庭と大々的な手入れも必要だ。狭い庭の小さな池ではメダカや金魚ぐらいしか飼うことができない。それはそれで楽しめるだろうが、それだけではちょっとさみしい。
金魚で思い出した。アロワナを飼っている建て主から、玄関にアロワナの体長よりすこし大きめの水槽を置いて飾りたいという要望があった。それらしい台をデザインし間接照明でアロワナを目立たせた。びっくりしたのは見えないところにもう一つ水槽を置きたいということだった。そこに入るのはアロワナの餌の金魚。ギョ!
新築後しばらくして訪問したら、吹き抜けの玄関に空っぽの水槽だけの不思議な光景。きっと運動不足だったんだろな~。

17~8年まえから住宅の設計に小さな池をかならず取り入れている。ポーチや濡れ縁に接した池が、いつの間にか生活に溶け込んでいるのが何ともうれしい。
水面のゆらぎが軒裏に反射し、そのうごめく波紋を楽しもうと設置したのがはじまりだ。ところが建て主はそれに飽き足らずビオトープを作ってしまった。ビオトープの勉強のために買い集めた本や土や水草への出費が5万円にもなってしまったと文句を言っていたが、そうして完成した都心のミニビオトープには大満足だったようだ。ここで”ゆらぎ”はどこかに消し飛んだ。
それからは、なぜ図面に池があるのかを説明するのにこの話を使わせていただいている。

ビオトープの作り方。まず粘土つちを入れて水草を植え水中に酸素を供給してもらう。ボーフラが湧かないようにメダカを入れる。池の壁についた汚れを食べて掃除してくれるタニシを住まわせる。タニシやボーフラの糞を食べて水底を掃除してくれるカワエビと土に潜って棲むドジョウを入れる・・以上でミニビオトープの環境は完結し、水を替える必要もない。水を飲みにきた鳥の糞から植えたはずのない草木が発生して、その意外性に驚く。
これがはじめにビオトープをつくった建て主から教わった話で、そのまま受け売りで新たな建て主に伝えている。以降、建て主さんたちは全員ビオトープを楽しんでいる。
小さなお子さんのいるお宅では、メダカの後にかならず金魚が加わる。お祭りの金魚すくいの成果だ。
はじめは「そんなもの要らない」と言っていた人も、家ができあがると池が欲しくなるらしく、気がつけばビオトープ仲間になっている。

身近な生きものの存在は人の感性を刺激する。池の仕掛けをつづけよう。

麻布

撮影者:不明