雑誌「チルチンびと」 75号掲載 人を生かし風土を生かす家づくり 宮城編 復興の 歯車を回す 「南三陸杉」が築く絆の輪
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は、2007年以降使用するほぼす べての材を、丸平木材から仕入れて いる。一棟挽きによって風合いの揃 った材を使った家づくりは、建て主 からも高く評価されている。「丸平 さんがいないと当社は仕事になりま せん」とタカコウハウス社長の髙橋 順さんは言う。丸平木材としても、 年間約 30 棟分、1300立米の安定 した取引ができる工務店があること で、経営計画の見通しがつく。また、 決まった形の商品しか売れない市場 に出すよりも、一棟挽きの強みが生 かせ、価格的にも魅力だ。このよう に、お互い「いないと困る」関係が 築かれていることが、迅速な工場再 建にプラスに働いた。  丸平木材の杉を使い、タカコウハ ウスの家に建具をおさめる今野木工 所。丸平木材と同じく、南三陸町の 工場を津波で失ったが、家族は無事 で、2012年6月、同県登米町に おいて新しい工場を稼働させた。社 長の今野慎靖さんは、「使い慣れた カンナなどの道具が流されてしまっ たのは惜しいですね」と言うが、髙 橋さんの「腕がいいから大丈夫!」と いう太鼓判に笑顔を見せる。  今野さんは、知り合いのツテで今 の場所に工場を見つけ、流されてし まった機械は中古のものを買い直し た。「自分の力で進まないと。早く 仕事がしたい」と今野さん。工場再 開直後から続いていた修繕の仕事が 落ち着き、今年からは再びタカコウ ハウスの仕事に力を入れたいと話す。  仕事や子どもの学校の都合で、生 まれ育った南三陸町を離れざるを得 なかった今野さんだが、ふるさとへ の思いは募る。「まだ住宅地の高台 移転が決まり始めたばかりで、うち のような工場や商店を再建する場所 はどうなるか……」。南三陸町では 現在、流された住宅地の基礎撤去が 順次進められている。また、津波対 策として、被害地に7メートルの盛 り土をする計画が決まったばかり。 新しいまちの姿を思い描くにはまだ 数年はかかるだろう。しかし、山の 会、丸平木材、今野木工所、タカコ ウハウスの例のように、仕事を通じ た信頼関係があることで、復興への 歯車はしっかりと回り始める。地域 の材で家を建てるということが、南 三陸町に再び日常を取り戻すための 大きな力となるはずだ。 木を使うことで 山に雇用が生まれ、 復興の力となる 南三陸町・荒沢神社に立つ、800年を生きる太郎坊杉。 【南三陸町山の会】 メンバーは、左から、会長の髙橋長晴さん、佐藤久一郎さん、小野寺さん、山内健一さん、及川太美男さん、山内正男さん、山内純一さん、 西條栄福さん、山内昇一さん、横山孝明さん、芳賀孝義さん、鈴木春光さん。そして、天神木材の菅原さんも最近メンバーに入り、全員で17人になった。 人を生かし、風土を生かす家づくり 51 日常を取り戻すため 地域の力を合わせる 153  

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