お山で野草摘み - 淡路島
 

お山で野草摘み - 淡路島

お山で野草摘み - 淡路島


 
ハーブの苗を育てるちなつさん

ハーブの苗を育てるちなつさん


 
摘みたての野草で料理教室 - アミーンズオーブン

摘みたての野草で料理教室 - アミーンズオーブン


 
おいしくて美しいお料理の数々

おいしくて美しいお料理の数々

料理家・どいちなつさんとご縁が出来たのは2年前。共通の知人を通じてうちのお店でお料理教室を開いてくださることになり、下見に来てくださったのが最初でした。お会いしたその日に、たくさん話をしました。「なんだか昔からお友達だったみたいだ」、勝手ながらそんな風に思いました。

ちなつさんのお料理教室は「季節の台所」という名前です。毎回、車のトランクに淡路島のお山の季節の花、愛用の調理道具や器、おいしい食材をたっぷりと積んできて下さいます。庭で育てたハーブをふんだんに使ったお料理は、いろんな国のエッセンスが絶妙に混じり合っていて新鮮。そして盛り付け方や器使いのセンスの良さに惚れ惚れしているうちにテーブルの上には、よそ行きと日常、どちらも併せ持つ特別なひと皿が生まれます。

毎回、教室の最初にちなつさんは参加者のみなさんに自己紹介をお願いされます。するとみなさんは思わぬ雄弁さで「なぜ参加したか」「今どんなことをしているか」「日々思っていること」などを、たっぷりとお話されます。こんなことはあまりないな、と思うのです。きっと「この人になら話しても大丈夫」、という安心感が場に流れているからだと思うのです。

ある日は、震災後に自主避難してこられた方が、テーブルに活けられた淡路のお山の花々を見て故郷の山を思い出して涙ぐまれ、その姿にみなさんがもらい泣きしました。
先日は、神戸の老舗の天然酵母のパン屋「アミーンズオーブン」さんでの教室に生徒として参加したのですが、その日は最初に参加者全員、ちなつさんのご友人でもある八百屋のyamusaiくんの自然農法の畑で野草摘みをさせていただきました。すると、やはり震災後に関東から引っ越してこられた方が、「自然はやさしいですね」と涙ぐまれ、またもらい泣き。ちなつさんは、誰の胸の内にもある「ほんとは誰かに聞いて欲しいこと」を引き出してしまうのです。自己紹介が終わりません。これはお料理が出来上がってみんなでご飯をいただく時に続きの話になるだろうな、と思っていたら、これが不思議。みなさん、見事に黙々とご飯を召し上がるのです。もう言葉はいらないのです。大人の顔が、子供のようになっている。お母さんにご飯を作ってもらっておいしいおいしいと食べる子供の顔になっている。ご飯の力ってすごい。

ちなつさんは東京で「にぎにぎ」というケータリングユニットでご活躍の後、 独立して雑誌や広告でのレシピやスタイリング提案、ワークショップなど、自然食を中心にした活動を行ったり、たくさんの料理本を世に出したりと忙しくお仕事をされていましたが、震災後、故郷の淡路島にご家族共々お引っ越しをされました。ご自身も故郷の海と山、そして犬のげんちゃんにたくさん癒やされた、と仰います。ちなつさんに会いたくて、私は淡路島を訪れるようになりました。先日は、ちなつさんの山の先生、生嶋史朗さんのご案内で野草摘みに同行。山に入る前に地元の小さな食料品店でお惣菜をたくさん買い込みました。「ここのは地元のおばちゃんたちの手作りでおいしいの」というちなつさんの言葉通り、山の中でウグイスの声を聞きながらの昼ご飯はほんとにおいしかった。史朗さんは、どこにどんな野草が咲いているかよくご存知で、「この土手は来年には工事の予定なので、今のうちに移植してやろう」と小さな野草を移植ゴテで掘り返されます。愛用のカゴを背負ったちなつさんも史朗さんと共に野草を移植されます。野に遊ぶ人は小さな草花にとても優しい。

その後、ちなつさんが少しずつ開墾を始めているお山の田畑にも案内してもらいました。遠くに瀬戸内海と四国が見えました。春のはじめに種まきをした小さなポットには、米粒ほどのハーブの芽がたくさん出ていました。

夕暮れ時、ご自宅の台所で手際良く、温かいチャイを淹れてくださいました。帰りの時間が近づくと、もう次はいつ会えるかな、と思います。“いちばんたいせつなもの”を一番大切にする暮らし。ちなつさんといるとそんな言葉が浮かびます。踏みつぶされる前に野の草を移植し、お山でたくさんの苗を育てているちなつさんは、種を蒔く人。ご飯をいただいた人の心の中で、希望という名のおいしい種が育っているのです。
 
profile photo by Hideaki Hamada

プロフィール

井崎敦子
井崎敦子(いざき あつこ)
大学を卒業後、書店員、民藝店店員、デパート店員、NPO職員など職を転々。8年前、同志社大学大学院社会人講座・有機農業塾に入塾、長澤源一氏の指導を受ける。現在も大原で小さな畑を耕しつつ、一昨年6月、左京区にオーガニック八百屋カフェ「スコップ・アンド・ホー」をオープン。美味しいものを通じてつながってゆくご縁が嬉しい日々。

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