よれよれ爺さん

よぼよぼの爺さんが、よたよたと歩いていた。
とても遅い。
普通の人の五分の一ぐらいの速さだ。
じっと見ていても眠くならないところをみると、
「能」の動きよりはまだ速いということか。

よたよたの割に身体がぶれないのは杖のせいだ。
持ち手の形はよく見えないが、
軸は太くて黒くて真っ直ぐだから、きっと金属製だろう。
仕込み杖?、それはない!
どうみても刀を振れそうに思えない。
先端に白い塊がついているが、
地面を突いてもコツコツ鳴らないところをみると、
やわらかな素材で出来ているようだ。

服装はというと・・ズボンは太めで歩きやすそうだが、
足元はなぜか革靴。
ダークグレーの、よれたカーディガンをサラリと羽織っている。
そのうえ・・白いYシャツにシックなダークブルーのネクタイ。
細めのネクタイは、先端カットのモダンなタイプ。
ん・・・?
これって・・床の間みたい?
そうだ! ”白壁”の「床の間」に”ブルーの掛け軸”だ!
カーディガンのよれよれは床の間を引き立てるためなんだ。
爺さんが神々しいお方に見えてきた。
ゆったりした歩みも、よれよれも、すべて演出に違いない!!

恐れ入りました・・・

撮影:岡本茂男

撮影:岡本茂男