このコラムの第2回で、モビール作品として最初にご紹介した「森の散歩道」というモビールを、モデルチェンジすることになりました。もっとも定番のモビールで、とても気に入っていたのですが、リリースから3年ほど経ち、変更したい部分が出てきたのです。「森の散歩道」というタイトルにふさわしく、もっと動物たちが散歩しているような雰囲気を出せないだろうか。マスコットキャラクターでもあるクマの「くまる君」は残したまま、巨大な木の周りを動物たちがトコトコと歩くイメージです。するするとデザイン案はできあがってきました。新たに、仔馬のポニーや、切り株から顔を出すお猿さんなどが登場して、にぎやかな感じにまとまりそうでした。でも、実際に飾ってみたとき何か違うなぁと思いました。何かが足りない。結局、その案は捨てて、もう一度最初から考え直しました。
ある日、家族で公園に行った時、僕は疲れてしまってベンチで寝転がっていました。大きな森のような公園だったので、巨木の枝が目の前を覆っていました。太陽の光がその間から漏れていて、周りでは子供やママが楽しそうに遊ぶ声が聞こえてきました。なんでもない休日の一日。太陽の光と、小鳥のさえずり、そしてママと子供たちの笑い声、こんな瞬間をモビールにできたら一番良いなぁ、とその時に思いました。思いがけないときにアイデアは降りてくるものです。足りなかったのは、言葉では言いようのない、この時の気持ち。モビールにどうにか封じ込めたい。帰ってからずっと、その時のイメージに少しでも近づけるように、アイデアを練り直しました。それで、できあがったのがこの「木洩れ陽」というモビール。僕がこれまで作ったモビールの中で、一番悩んだ自信作です。モビールが回転することで、リスとリス、鳥と鳥、サルとサルが、出会うようになっています。モビールならではの動きも、今までより意識して作りました。最後まで迷ったのは、サルの隣にある黄色い丸。最初はリンゴや木の実にしようかと思ったのですが、もっと抽象的なものでいいような気がしました。
「ママ、これって何?」
ある時、そう尋ねられるかもしれません。
それは僕が公園のベンチで寝転がっているときに見つけた言葉にならない何か。見る人がそれぞれのモノを当てはめてくれたら良いなぁと思うのです。
- 「紙」と「糸」だけで製作された新しいタイプのモビールを製作する、名古屋のモビールメイカー「マニュモビールズ」代表。日本発のプロダクトを日夜研究し、世界中の家庭へ届ける事を目標に活動中。