墨
墨の起源は中国殷時代(紀元前1500年)頃。日本では『日本書記』に「推古天皇の18年春3月、高麗王、僧曇徴を貢上す。曇徴よく紙墨を作る」とあるのが、墨に関する最古の記述といわれます。奈良朝時代に和束で松煙墨(松の木片を燃焼させて煤を採取したもの)が作られたのが、日本の墨製造の始まり。その後、平安時代の末頃から荏胡麻の油を使った油煙墨が造られ始めると墨の質が向上し、製法も進化し、室町時代には興福寺二諦坊の支援によって「日本奈良墨始」と刻印した油煙墨が造られるようになりました。江戸時代には全国に広がった墨工ですが、優秀な職人は奈良へ集まり、現在では日本の墨の9割以上が奈良で生産されています。
その奈良で、400年以上も墨を作り続けている老舗「古梅園」。登録有形文化財にも指定される優美で重厚な店舗兼工房は、広い敷地内に入口から奥の作業場へと荷車の線路が敷かれているのが印象的。広報の袋亜紀さんに案内していただきました。まずは煤取蔵で、墨の種類に合わせ菜種油、胡麻油、椿油、桐油などの純植物油を土器に入れ、墨の質に合わせて太さを変えた燈芯で油を少しずつ燃やして集まった煤を取ります。窯屋で膠(にかわ)を溶かして煤と混ぜ墨玉を作り、竜脳、白檀、ムスクなどを調合した香料を加え、手や足を使い全身の力で捏ね上げます。練り上げた墨は江戸時代から伝わる梨の木型に入れ、木灰に埋めて乾燥を繰り返し、最後は木造の倉庫で3カ月から半年ほど自然乾燥して、磨き、彩色して仕上げます。
様々な時代の変遷に柔軟に対応しながら、職人、原材料、道具、建物のすべてを大切に継承してきた古梅園。名墨「紅花墨」は、300年近くもの間変わらぬ製法で作られ、古今東西多くの書道家たちに愛されてきました。繊細で忍耐強い作業の連続で生まれた小さな一丁の墨から、豊かな書の表現が生まれ、日本の誇る墨文化を未来へと繋げていきます。
五星 紅花墨 1/3丁型 2,000円(税別)~
株式会社 古梅園
〒630-8343 奈良県奈良市椿井町7番地
TEL:0742-23-2965
H P:http://kobaien.jp/