釣りしのぶ
江戸の植木職人が出入りの屋敷へ、夏のご挨拶にと拵えた鑑賞用のシノブ草。それが、「釣りしのぶ」の始まりと言います。夏に葉を茂らせるその姿は、縁日などでもしばしば見かけられ、江戸時代より夏の風物詩として親しまれてきました。
東京都・江戸川区で釣りしのぶをつくるのは萬園の二代目・深野晃正さん。自宅脇にある3畳ほどの小屋が作業場です。狭い場所が落ち着くのだとか。傍らには材料である山ゴケやシノブが入った袋などが所狭しと置かれています。萬園の釣りしのぶの型は、美大生とのコラボでたくさん増えています。割竹や針金を芯に、山ゴケを巻きつけて形づくり、さらにシノブの根茎を巻きつけ、軒下に吊る棕櫚縄をつけます。
落葉性であるシノブは秋に葉を落とし、休眠に入ります。休眠の間、根茎はやわらかくなり、曲げるなどの加工がしやすくなるため、釣りしのぶの制作はこの時期に行われます。芽吹くのは新緑の季節。落葉後は、乾かしてからビニール袋に入れて保存するなどの手入れをすれば数年は楽しめます。
「シノブが絶えるのがいちばんの心配事だな」と話す深野さん。以前は組合もあり、材料は仕入れ易い状況でしたが、今は岩手や奥秩父で山仕事をする人に直接採取をお願いしています。それでも、山に開発の手が入ると自生しなくなってしまうので、深野さんはシノブを確保するために、毎年自生地を探し歩くそうです。
水分をたっぷり含んだ山ゴケとシノブの葉が風にゆれるのを眺めれば、ひと時、暑さも忘れます。
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