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裸体モデル誕生

渡部倫枝①(イラストレーター)
1989年~1991年在籍

突然ですが、私は長沢節(先生)の大ファンです。絵描きの端くれとして、日本の好きな画家・絵師ベスト3は、...中原淳一、手塚治虫、そして長沢節なのです。この3氏の中で唯一、作品のみならず、その存在、スタイル、プロポーション、美学、生き方、哲学、そんなもの全てに大きく影響を受けたのが長沢節でした。初めてその作品を観たのは「ソレイユ」の表紙でした。
 初めてそのお姿を観たのは古書店の「平凡パンチ」の中の写真でした。12歳の私は、激しく衝撃を受けました。こんな絵も人も見たことがなかったのです。垢ぬけてシックでした。どう見ても洒落ていました。しかもアヴァンギャルドでした。

本屋で見つけた「セツ学校と不良少年少女たち」(三宅菊子著)を読み、氏の主宰する、美術とファッションの学校「セツ・モードセミナー」に強く憧れました。18歳のとき、やっとやっとセツに入学が決まります。当時は抽選制だったのです。
 そんなある日、バイト先の映画館に向かう早朝、電車の中吊り広告に「中原淳一展」を見つけました。大好きなイラストレーションに胸が高鳴り、会期を確認すると、なんと本日から!さっそくバイトが終わった昼下がり、その足で美術館に向かいました。「セルの頃」という大好きな作品の前で足が止まりました。しばらく見入っていると、左のほうから、視線を感じます。誰かが、私をじろじろと見ているようなのですが、それがちょっと長い時間なので、気持ち悪いし、怖くて振り向くことができません。

それでも上から下まで見られているので、思い切ってちらりと横目で左を見ました。野球帽に大きなサングラス。ガバッと羽織ったジャケット、そして真っ白なパンツは信じられない細さのもの…あっ!この人は!!「な、長沢節だ!!!」心で声をあげました。
 間違いない、このスタイル。それにしてもなんという細い人…それに背も低くない。声をかけてみよう、秋から先生の学校の生徒になりますと。「あの‥」その瞬間です。館内に放送が流れました。「レセプションにお越しのお客様、お時間になりましたので、会場のほうへお集まりください」。セツ先生は、ふいっと踵を返すとスタスタと行ってしまいました。。。これが、セツ先生との初めての出会い?でした(笑)
 (長くなりますので、この辺で、忙しい方はどうぞスルーしてくださいm(__)m)。

セツに入学してから、大好きな絵を描きに描く日々。楽しくて夢中でした。憧れの先生がアトリエに入ってくるときの、あの緊張感もたまりません。それまでぼんやりとモデルを描いていた生徒たちも、先生の「素敵なポーズよ!うん、カッコいい!!」などの一声で空気がガラリと変わるのです。
 鉛筆に画用紙に画板。そしてガリガリに痩せていて細く、小さな頭部と長い脛を持つ美しい造形の素敵なモデルさんたち。用意されているのはこれだけ。これがデッサンの画材のすべてでした。でも、このモデルさんたちを囲んで日々ひたすら10分クロッキーを描いていくだけで、なにが美しくてなにが醜いのか、カッコいい線とは? 画面のダイナミズムとは? だんだん見えてくるのです、コワイですね(笑)。

さてある日、故・H先生に呼び止められます。「あなた、コスチュームやったらどうかしら?」コスチュームとは、着衣のモデルという意味です。言われるままセツ先生のところに行くと、これから試写会にお出かけで忙しそうな先生。「オレ、もう行くから、☆先生にみてもらって」と言われ、今度は教頭格の☆先生のところへ行きました。聞かれるまま、身長と体重を申告すると、「ギリギリかな…」とのお返事。「裸体も大丈夫です♪」と言ってみると「ああ、それなら!裸体は痩せてれば誰でもいいから」と言われました(笑)。
 痩せてれば誰でもできる。裸体モデルとはそういうもんなのですかね(笑)。こうして生徒あがりの裸体モデルが誕生です。H先生にご報告すると、「何も脱がなくてもいいのに…」と心配そう。でも、幼いころからクラシックバレエ、小中学生時代は器械体操、高校時代はダンスに明け暮れた私は、身体表現がもともと好きで、脱いでようが着てようが、同じじゃないの? という感覚だったので無問題(^^♪)。

(つづく)
 

5 Comments | RSS

  1. 星信郎 より:

    ワタナベさん健在ですね、このユーモラスな上手い絵と散文とであの頃が懐かしく甦りました。
    それにしても僕は渡部さんにずいぶん失礼なことを言ってたんだね、いまさらながら陳謝です。
    じつはね、セツ先生は渡部さんモデルのときがいちばん上手く描けたらしい、初川先生の見立ては確かだった。 次回も楽しみにしてます。

    • 渡部倫枝(NorieWフレアバタフライ) より:

      こんばんは!星先生(^^♪ この前のデッサン会でもお世話になりましたー。さっそくご覧下さり、恐縮です。コメントありがとうございます。
      いえ、実際、裸体モデルはコスチュームモデルより、審査のハードルが低いもんだと、噂で存じておりました(笑)
      セツ先生、どのデッサンもお上手なので、違いがイマイチわかりませぬがー( ̄▽ ̄)>アハハ。
      でも嬉しいです、初川先生のお顔を潰さずに済んだようで安堵します(笑) 次回もご笑覧くださいませ。

  2. 渡部倫枝(NorieWフレアバタフライ) より:

    星先生!そういえばね、今日4月8日はセツのコスチューム授業のフィナーレですよ。夜間部のモデルしてくる予定です。
    今、セツ先生の本に載ったデッサンと同じ衣装を掘り出して、明日のコーディネート組んでます(笑)
    能登先生が縫ってプレゼントして下さったブラウスとか、セツでの思い出の衣装を揃えて着るつもりです。
    まー、在校生たちには「…で?なんのこっちゃ?」かもしれませんが(*^^) 頑張ってきまーす!

  3. 佐藤由利子 より:

    モデルをなさったということで、思わず在籍期間をかくにんしました。
    残念ながらお会いしてないですが、親近感感じてしまう渡部さんです。
    セツ物語の皆さんの文章を読んでいるとその情景がありありと思い浮かぶ
    のが不思議です。みんなの心の中にセツ先生は生きているんですね。

    • 渡部倫枝(NorieWフレアバタフライ) より:

      佐藤さま、コメントありがとうございます( ^ω^ )
      学籍的には2年でしたが、モデルとしては昨晩のラスト授業まで、27年間続けさせていただきました。
      途中、ブランクが4年間ありますが、弥生美術館でのセツ先生の初の回顧展がきっかけで母校にまたモデル復帰しました。セツ先生には晩年の8年間ほど、描いて頂きましたね。佐藤さまのご在籍期間は、ずれていますでしょうか?
      おっしゃるとおり、それぞれの中に、今も先生は生きていると思いますね。

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