「大学時代の恩師から本をいただいて、お礼にお菓子を送りたいのですが」と知人から注文をいただいた。環境デザイン学がご専門で、特に都市の中に自然を取り戻すための「庭」に造詣の深い方なので「自然や緑に因んだ菓子」をというご要望。依頼人さんは金沢、受け取る方は京都。共にお菓子処だから、「はて、どうしたものか?」

設計された庭の一つは京都の街中の草も木もない貨物ヤードを人の手で多様な生き物が棲めるように森・草地・小川・湿地・池など色々な環境を再現するというもの。1996年から16年たった今ではコクワガタやカワセミ、フクロウなど希少な生き物も生息する。京都本来の植生を再現するために都市化以前の環境を彷彿とさせる下鴨神社の「糺の森」を目標にするという壮大な「いのちの森」プロジェクト。

他にも雨水を下水に流してしまうのではなく、雨はその場で受け止めて「蓄雨」して植物や生き物の循環する庭として恵みを得ながら、ゆっくり浸透させることで氾濫など非常時の災を和らげる「減災」の役割を担う「雨庭」なども提案してこられている。

ふと「箱庭みたいにの菓子の庭を作ったら…」と思いついた。干菓子や饅頭、羊羹などで表現できないかと手持ちの道具をいろいろかき集める。

スケッチを描いたら何やら「庭の詰め合わせ」ができそうな気がしてきた。

「観世水」という古い落雁の木型があった。 この文様は、常に新しく変わりながら姿をとどめている水の流れは清めの意味を持ち、未来永久の象徴とされるという。この細長い直方体に凹凸だけで波紋が広がり続ける様子を表現してしまうデザインの潔さに惚れ惚れする。昔の木型職人さんの技と想いに感謝しつつ和三盆を打つ。

次に自家栽培の青大豆のきな粉ですはまを作る。夏の田んぼに生えている「オモダカ」という水生植物の抜き型を使う。漢字で書くと「面高」だが由来は三角形に切れ込んだ葉の形が人の顔に似ているからとか。家紋や茶道具の意匠などにも取り入れられている。

水と緑がそろったら、トンボやカエルや生き物がいると感じが出る。でもあまりにも直接的すぎるのも…と思い多様な生き物の象徴ということで小さな龍の焼印を押した薯蕷饅頭を作ることに。「雨龍」とは中国から伝来した架空の聖獣で、竜巻を起こし、天に昇って雨を降らすと言われている。また水を司る聖獣とされており、雲、雷など、雨を表す文様とあわせて意匠化されることが多い。

自家栽培の小豆で粒餡を炊いて卵を泡だて合わせて浮島を蒸す。その上に水色の寒天の錦玉を流す。加賀丸芋を蒸して白小豆と合わせた薯蕷練切のそぼろを重ねて押す。浮島やそぼろの切り屑で錦玉を汚さないように、逆さにして切り分ける。仕上げに雨粒を散らす。






おままごとのお弁当みたいに一つづつ、ブリキの缶に詰めていく。掛け紙は「いのちの森」の画像をプリントしてお届けした。

いつか、雨の日に訪ねてみたい京都の庭がある。