能登の花嫁

もう30年も前のことだけれど、結婚式の時の引き出物に選んだ菓子のことは今でも覚えている。一つは両口屋是清さんの二人静。紅白一対の和三盆の小さなおちょぼが合わさって和紙に包まれている。可愛らしくもありながら、これから歩んでいく人生のスタートにふさわしい気がして母と選んだのを覚えている。

もう一つは夫の実家の近くの和菓子・大吾さんの爾比久良(にいくら)。今は亡き義父の御使いものはいつもこれだった。初めていただいた時は大きくてびっくりしたけれど、黄身時雨がなめらかであっさりして本当に美味。どっしり堂々とした姿は潔くて、気取りがない。

人生の節目はいろいろあるけれど中でも結婚というシーンには和菓子が似合うような気がする。最近、「伝統的な和菓子もいいのだけれど、花嫁の育った能登の里山里海の風景を菓子にして贈りたい。」とご依頼をいただいた。

白磁のお重箱

小さなお菓子をいろいろ詰め合わせた箱をというリクエストだったので、食べ終わった後も若いお二人が日常で使いやすそうな白磁のお重箱を使う。

能登の海の色に合わせて白小豆のこなし生地を作る。

能登の海の色に合わせて白小豆のこなし生地を作る。

能登の浜で漁師さんに獲ってもらった蛤に、能登のアオサの錦玉を流す。

能登の浜で漁師さんに獲ってもらった蛤に、能登のアオサの錦玉を流す。練り切りの千鳥や芥子の実で砂浜を表した貝合わせ。

舟の焼印や千筋板で波を写しとる。

舟の焼印や千筋板で波を写しとる。

小さな餡玉を入れて山の形の押しものを作る。

小さな餡玉を入れて山の形の押しものを作る。

田んぼに見立た羊羹にはあぜ道の緑のそぼろを植え込んで。

田んぼに見立た羊羹にはあぜ道の緑のそぼろを植え込んで。

能登の特産の小さな菊炭も。

能登の特産の小さな菊炭も。

能登の特産の小さな菊炭も。

一段目の里海重。お弁当を詰めるように彩りを考えながら海の幸を詰めていく。

二段目の里山重。春の季節だったのでこれから田植えが始まる集落のイメージで。

二段目の里山重。春の季節だったのでこれから田植えが始まる集落のイメージで。

仕上げはクライアント自ら、花嫁にも思い出深い地名や風景を小さなお品書きふうに入れていただく。

仕上げはクライアント自ら、花嫁にも思い出深い地名や風景を小さなお品書きふうに入れていただく。

小さい頃遊んだ風景や思い出が伝わることを祈って。メッセージも蓋の上にのしが割りのせて。「開けたら浦島太郎みたいになったらどうしよう」と笑いながら納品となる。

このご時世で結婚式を延期したり、家族だけでひっそりされたり、オンラインでという場合も珍しくない。知人が「やっと式をあげられた」と伺ってささやかな気持ちをと思いたつ。

このご時世で結婚式を延期したり、家族だけでひっそりされたり、オンラインでという場合も珍しくない。知人が「やっと式をあげられた」と伺ってささやかな気持ちをと思いたつ。

夫婦岩といえば伊勢二見。海に大小二つの岩が寄り添うように佇み、しめ縄で繋がっている様子が有名だ。あまり知られていないけれど、能登にも機具岩という夫婦岩があるので見立てて菓子を作る。伊勢に比べて、能登の夫婦岩はなんと女岩の方が男岩より大きいとのこと。

能登大納言の蜜漬けをこし餡につけただけのシンプルなもの。艶寒天をかけ金箔を少し。千鳥は嬉し泣きしたかのように和三盆に紅をひと挿し。

能登大納言の蜜漬けをこし餡につけただけのシンプルなもの。艶寒天をかけ金箔を少し。千鳥は嬉し泣きしたかのように和三盆に紅をひと挿し。

二つの岩を繋ぐしめ縄は召し上がる時に、ラッピングの紐を使ってジオラマ風に遊んでもらえたら楽しいかもとニヤニヤ。

二つの岩を繋ぐしめ縄は召し上がる時に、ラッピングの紐を使ってジオラマ風に遊んでもらえたら楽しいかもとニヤニヤ。

骨董屋さんで求めた古い菓子屋の掛け紙の板木で和紙に刷る。メッセージを添えて。

骨董屋さんで求めた古い菓子屋の掛け紙の板木で和紙に刷る。メッセージを添えて。

あえてシンプルにパックに入れて包む。

あえてシンプルにパックに入れて包む。

紅白の紐がちょっとめでたい感じ。

紅白の紐がちょっとめでたい感じ。

ちっちゃい鳥居はポチッと赤く。

ちっちゃい鳥居はポチッと赤く。

お渡しする時新婦にひとこと。 「あ。大きい方召し上がってくださいね。」 末長くお幸せに。

お渡しする時新婦にひとこと。
「あ。大きい方召し上がってくださいね。」
末長くお幸せに。