七五三詣の菓子

輪島市三井町市ノ坂集落の八幡神社。お宮は小高い丘の上に佇んでいる。春や秋のお祭りや小さなお祭りなど行事の際に宮司様がいらっしゃり司られる。昨年は集落に移住してこられた米農家さんの三人兄弟の末っ子が、三歳の女の子で七五三詣をされるという。細川宮司より菓子を授与したいのでとご依頼いただく。

農家さんというのは、自然栽培の田んぼの畔でうちの小豆を栽培させていただいているので知り合い。そして子供たちも顔見知り。その上今年は一番上の男の子も七歳、真ん中の女の子も五歳というから特別な年。荒れた田圃を開墾して、結婚されて、家族が増えてという時間を傍で見てきたからこそ、なんとなく親戚のおばさんのように、「健やかに育たれてよかったな。」とお祝いしたい気持ちになった。

都会の大きな神社で七五三詣をした自分からすると、産土神にお参りするというのは改めて素晴らしいことだなと思う。せっかくの機会なので千歳飴を作ることにした。

輪島エコ自然農園さんでは自分達で作った自然栽培米を能登町の横井商店さんいお願いして米飴も作って販売もされている。自分の田んぼから生まれた千歳飴でお祝いできたら素敵だなと思ってお作りすることに。

千歳飴というと紅白の棒状の飴が袋に入っている。細くて長い飴を食べると長寿になるという縁起物。せっかく自然栽培の米飴と合わせるならば着色料は使いたくない。古来小豆の赤は邪気を払うとして赤飯などが食べられてきたので、赤小豆の漉し餡で表すこととする。

スキムミルクなどと練り合わせた後細長く伸ばして整える。きっと兄弟で喧嘩になるので3人分作っておく。宮司さんにもおひとつ。うっすらとした色付きだけれど自然栽培農家さんに似合う。

子供の時の千歳飴は大きすぎて持て余した記憶がある。ベタベタにして飽きてしまったような。そこでちょっと小ぶりにして、鶴や亀などの意匠の干菓子の小袋とセットにする。

ここまでくると子供たち3人が千歳飴の袋を提げてお宮に立つ姿を妄想した。表はおめでたい図柄や壽など、裏は集落の地図に子供たちの写真をイラストレーターでレイアウト。持ち手も作って厚紙にプリントアウトして貼り合わせる。

中に干菓子や千歳飴を入れて封緘を貼る。

奉納してお祓いをしてもらい、七五三詣が始まる。

小さな手に千歳飴の袋を下げてかわいい姿。

奥能登の集落は少子高齢化が進む中で、なかなかこんな光景は見られなくなったけれど、どうか子供たちにとって希望のある未来をとお祈りする。

貴重な機会をくださった細川宮司にも千歳飴袋を。

今年は隣の集落のご家族から七五三参りにちなんだ生菓子をとご依頼いただいた。こちらも移住して、結婚、お子さんが誕生して五歳の男の子のご家族。ふだんお世話になっている方々に配られるそう。

神社の鈴やお宮にいる鳩などのモチーフを取りれた小箱を考える。巫女が舞う際に使う神楽鈴は場を清め、神様を呼ぶ音色。古来日本人は澄んだ鈴の音は自然界の音を模倣していると考えたとか。

つくね芋と砂糖を擦り合わせたもので米粉を織り込み薯蕷饅頭の生地を作る。自家栽培の能登大納言の漉し餡を包み蒸籠で蒸しあげる。

鳩の焼印を押して、小さく鳥居の紅を挿す。参道を歩いていると遠くに鳥居が見えてくる。小さな饅頭に空間を感じていただけるように。

桃山という菓子で鈴を形作る。自家栽培の白小豆に黄身を合わせた黄身餡で金柑の蜜漬けを包む。三角棒で筋を入れ団子の串で丸や穴を開けて鈴にする。

オーブンで焦げ色が少し入るくらいに焼く。輝く金の鈴に見えるように、本味醂を塗って照りを出す。

七五三の長い千歳飴を皆さんにのお裾分け。

容器に詰めて紅白の紐を結んで仕上げる。餅板に並べながら若者が移住前から集落に通っていた姿を思い出しながら、幸せなお仕事をさせていただいたなと感謝する。