第26回 かわいい九谷 vol.2

川合孝知

やきものの絵付には、素焼きの状態の生地に描画してから釉薬を掛けて高温で本焼成する「下絵付(本焼成一回)」という技法と、釉薬を掛けて本焼成した生地の上に描画し、さらに低温で焼成して絵具を定着させる「上絵付(本焼成一回+上絵焼成一回)」という技法があります。
九谷焼のようなあでやかな色彩表現を持つやきものの場合は、後者=上絵付の工程が必要。色絵具はきれいに発色させるのが難しいため、二度焼きする手間が必要なのです。
川合孝知

九谷の作り手・川合孝知さんの工房を訪ねると、机の上の引き出しには、色絵具の顔料がびっしり。
これらの絵具を用いて、前回紹介したようなかわいらしい絵付けの器が制作されるのですが、九谷焼の場合、絵具を「塗る」というよりは、「盛る」ようにして着彩。
まず絵柄の輪郭を線描きし、その内側に絵具を盛ってゆくため、着彩された面はぷっくりと盛り上がり、独特の風合いを醸します。このため、九谷の色絵具は盛絵具とも呼ばれています。

川合孝知

また、絵付けを施した後、上絵焼成する際に川合さんが愛用しているのが、円筒形の「錦窯」。
僕はいろいろな産地で窯を見せてもらっていますが、立方体の窯を見かけることが多く、この形状のものを見るのははじめて。内側面から800度前後の熱を均等に伝えるため、色絵具をムラなくイメージ通りに発色させることができるのだとか。この上絵窯は現在ほとんど製造されていないようですが、使い勝手が良いため、川合さんはメンテナンスしながら使い続けているそうです。

川合孝知

九谷焼にはいろいろな様式がありますが、川合さんはこれまで白磁素地に色絵を描く「古九谷(こくに)」的な描画法で、オリジナリティあふれる作品を作ってきました。
ただ、僕としては、新たな作風の作品を見てみたい気持ちもあり、昨年あたりから「木米(もくべい)」と呼ばれる様式を取り入れた作品を依頼するようになっています。「木米」とは京都の文人画家・青木木米のことで、19世紀初頭に加賀藩に招かれ、全面に赤絵を施した斬新な九谷焼を生み出した名工です

川合孝知

本来の木米様式は中国文化の影響が強いものですが、同じような描画技法を用いても、川合さんの感性が抽入されると、作品は不思議とチャーミングな印象に。先人たちの手わざとは異なる美意識を宿す器は、これから先「かわいい九谷焼」として新たなファンを獲得してゆくのではないでしょうか。
川合さんとはこれからも対話を続けながら、「伝統」と「オリジナリティ」が折り合う時代の接点を探ってゆきたいと思っています。つなぎ手として。